KOKAMI@network vol.19 『ウィングレス(wingless)-翼を持たぬ天使-』 撮影:田中亜紀

 人間の女性に恋した天使は翼を捨てて人となり、地上で生きることを選ぶ――。ロマンティックなシチュエーションから始まる物語。それが鴻上尚史プロデュースによるKOKAMI@networkの第19弾公演『ウィングレス(wingless)—翼を持たぬ天使—』。
 だが鴻上自身の作・演出による本作は、ただロマンティックなだけではない。元天使の榊原一郎(福田悠太〈ふぉ~ゆ~〉)が恋をする絹田玲菜(大野いと)は恋人に振られて人生の目標を見失っていて、玲菜の元恋人であるフリーライターの芝隆太(鈴木康介)も手がけたい企画が通らず崖っぷち。榊原が公園で出会った小学3年生の森川麻衣(三上さくら/中川陽葵)は、母・彩子(田畑智子)の帰りをひとり待っている。その彩子はスピリチュアルグループ「宇宙の声」にはまっているようで、神山秀雄(渡辺いっけい)に助けを頼み込もうとして第一秘書の岩波大介(小南光司)に追い返される。岩波も神山に心酔、彼の前に現れた榊原に敵意をむき出しにする。登場人物はみんな、こじらせまくっているとしか言いようがない。第一、神様が渡辺いっけいの兼役だということだけで、一筋縄ではいかないと察せられるというものだ。
 「一人の人間を本当に救ったら、天使に戻す」と神様に告げられた榊原。彼はそのために「天使本舗」という会社を立ち上げ、人々のさまざまな悩みや困り事を解決するために奔走していく。かなりコミカルな展開で、特に福田と渡辺の全身をダイナミックに動かして見せる掛け合いに笑いを誘われる。天性の明るさと優しさを感じさせる福田、良い意味で“くせ者”な持ち味を全開にしつつ場をリードしていく渡辺、両者あってこその舞台だ。ふたりのエネルギッシュな芝居が、この作品の要と言えるだろう。また、娘との関係が複雑な状況である彩子を演じる田畑は自然な佇まいで、しかも観客のさまざまな感情をかき立てるに違いない芝居が確かな実力を示している。
 彼らを中心に、大野、鈴木、小南もそれぞれに複雑な思いを表しつつ、時には体を張って見せ場を盛り上げる。その全力投球ぶりは、笑えると同時に清々しくもある。
 スピリチュアル的陰謀論、いじめ、ルッキズム、子ども食堂など現代のさまざまな問題が盛り込まれた展開も、その場だけの笑いを楽しむコメディーに終わらず、観客各々が観劇後さまざまに考えをめぐらせるきっかけとなるだろう。中でも、榊原と麻衣の交流はかわいらしく切なく、特に心に残る展開だった。

▼KOKAMI@network vol.19 『ウィングレス(wingless)-翼を持たぬ天使-』
東京公演日程:5/1(月) ~ 21(日)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

大阪公演
日程:5/27(土)・28(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ