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風薫る5月、歌舞伎座新開場十周年「團菊祭五月大歌舞伎」では心弾む6演目が上演中だ。昼の部は、江戸歌舞伎の様式美が堪能できる『寿曽我対面』と、先々代から團十郎が演じてきた新歌舞伎『若き日の信長』、尾上眞秀(まほろ)が“初舞台”を踏む『音菊眞秀若武者(おとにきくまことのわかむしゃ)』。夜の部は、源平合戦の登場人物が勢ぞろいする『宮島のだんまり』と、東大寺のお水取りを舞踊劇にした尾上松緑による『達陀(だったん)』。最後は世話物の名作『梅雨小袖昔八丈 髪結新三』を、尾上菊之助の新三で贈る。

中でも注目は昼の部『音菊眞秀若武者』だろう。本作で歌舞伎俳優としての初舞台を踏む眞秀は、人間国宝・尾上菊五郎の孫で俳優・寺島しのぶの長男だ。本作は狒々(ひひ)退治などの伝説で知られる豪傑・岩見重太郎の物語をもとに菊五郎が演出を担当した演目。舞台は越中の国守・大伴家茂(市川團十郎)と、奥方の藤波御前(菊之助)らの祝いの宴から始まる。そこへ剣術指南役の渋谿監物(坂東彦三郎)が女童(眞秀)を連れてやってくると、藤波御前は女童を気に入りふたりで舞を披露することに。眞秀は大きな瞳が愛らしく、まだ10歳ながらハッキリとした台詞回しと落ち着いた所作での踊りに、客席からは歓声と大きな拍手が沸き起こった。

続いて、村の者たちが化け物のために困っているという訴えを聞いた女童が、実は重太郎であると正体を明かし、狒々退治のために山中へ向かう場面へ。ここでは大狒々を従えた父の仇・長坂趙範(尾上松緑)と手下たちを相手にした立廻りが見どころだ。眞秀はキリリと立つ若武者ぶりが勇ましく、堂々とした刀さばきに再び客席は大盛り上がり。菊五郎演じる弓矢八幡が重太郎に「技芸に励むべし」と諭し重太郎も大望成就のため武者修行へ旅立って行く終盤は、眞秀自身の姿と重なり、みたび大きな拍手が贈られた。眞秀は2017年の“初お目見得”から毎年舞台に立っているが、その舞台度胸と芝居心は歌舞伎ファンに広く知られているところ。改めてその稀有な素質を披露した形となった。

他にも、昼の部『寿曽我対面』では尾上松也と尾上右近の曽我兄弟が瑞々しく、十二世市川團十郎十年祭『若き日の信長』では“うつけ者”といわれた信長の成長譚を團十郎がハマり役で表現。夜の部も、歌舞伎ならではの情景美が堪能できる『宮島のだんまり』、松緑と約40人の練行衆がコンテンポラリーダンスのようなダイナミックな群舞で魅せる『達陀』と、どれも爽快なラインナップ。さらに『髪結新三』では、TVドラマに新作歌舞伎にと幅広く活躍し今まさに脂が乗っている菊之助の新三がなんとも粋な格好良さ。初鰹を売る肴売りの声、朝湯帰りの浴衣姿の新三など、初夏の風を舞台で感じられるのもこの演目ならではの魅力だろう。

取材・文:藤野さくら