撮影:田中亜紀
映画監督でもある山田佳奈が書き下ろした新作を、音楽劇「海王星」、「ドリームガールズ」など幅広く活動する眞鍋卓嗣が演出する「楽園」が6月8日(木)より新国立劇場で上演される。開幕が迫る5月下旬、稽古場に足を運んだ。
年に一度、女性だけで行われる神事、改革派と保守派が対立する村長選挙のさなかにある小さな島を舞台にした本作。
7名の登場人物は全員女性で、特異なのは彼女たちが固有の名前で呼ばれることがない点。世話好きの「おばさん」(中原三千代)、移住してきた「若い子」(豊原江理佳)など“年齢”を基準にした役名を与えられた者もいれば、「村長の娘」(清水直子)、「区長の嫁」(深谷美歩)と属性(しかも、村では男性が就いている役職)に沿った名を付された者、神事を隠し撮りしようとする「東京の人」(土居志央梨)、神職の「司さま」(増子倭文江)など誰ひとりとして個人としての名前(そして立場)を与えられていないところに書き手の強い意志が感じられる。
「おばさん」(劇中、そう呼ばれることはないのにこの役名を与えられている!)の「娘」(西尾まり)も、単に血縁関係を表すのではなく、親の視点から“孫の顔を見せてくれるはずの存在”、“いずれ介護を託す存在”といった「役割」を意識して与えられた呼称であることがわかる。
閉鎖的な“ムラ社会”ならではの因習やいざこざが面白おかしく描かれるのかと思いきや、そんな狭い話ではない。村は日本社会の縮図であり、結婚、出産、不妊、離婚、介護、セックスレス、パワハラ、ブラックな労働環境、男らしさの押し付け…など、彼女たちの会話を通じて見えてくるのは、都会も地方も関係なく、現在進行形で多くの女性たちが直面している(そして、多くが男性中心の社会に起因する)様々な問題である。
稽古場で演出の眞鍋は、俳優陣の提案を聞き入れつつ、ひとつひとつのセリフのニュアンスを細かく微調整していく。山田の本の面白さはもちろん、言い方ひとつで、“毒”の含有量、ユーモアのバランスが大きく変わりそうなセリフが盛りだくさんであり、どんな味付けに仕上げていくのか完成が楽しみだ。
取材・文:黒豆直樹







