高校プロコンの実行委員で埼玉県立三郷工業技術高等学校 情報技術科の稲田正之先生

全国高校生プログラミングコンテスト(高校プロコン)やU-15/16プログラミングコンテスト(U-15/16プロコン)で使われている対戦プラットフォーム「CHaser(チェイサー)」。碁盤の目状のフィールドを舞台に、あらかじめプログラムでコマの動きを作り込み、相手と戦って勝敗を決める。ゲームとしての楽しさもあり、プログラミング教育の教材としても有用だ。高校プロコンを主催する全国情報技術教育研究会が開発、運営している。誕生から現在に至るまで主要メンバーとして活躍する、高校プロコンの実行委員で埼玉県立三郷工業技術高等学校 情報技術科の稲田正之先生に、CHaser開発の舞台裏をうかがった。

「スタートは埼玉県工業高校生プログラミングコンテスト(埼玉プロコン)で使っていた『ターゲットサーチ』だ。1次元の線上に1対1で並んで戦うプラットフォーム。弾を撃ち合うシンプルなゲームだったため、やがて解法ができてしまった。そこで生まれたのが2次元で展開する『追いかけっこ』をコンセプトにする、CHaserのバージョンゼロ」。稲田先生はCHaser開発のきっかけを明かす。

1対1で2つのコマがフィールドを動き回り、相手の上に乗れば勝ち。当初コマンドは3つしかなかったが、1次元から2次元になったことで複雑化し深みが増した。しかし、「2006年、07年と埼玉プロコンで使ってみたが、延々と追いかけっこを続けて決着がつかないこともあった。そこで『アイテム』という概念を導入。取ったアイテム数でも決着できるようにした。これをCHaserバージョン1として、08年の高校プロコンの競技部門で導入した」(稲田先生)。CHaserの本格始動だ。

その後、チーム名表示など画面を見やすくしBGM機能も加えたバージョン2が誕生。これが旭川に広がり、現在U-15/16プロコンで使われているCHaserの母体になった。ローカル版としてのCHaserは、完成度が高まった。しかし、今度は高校プロコン運営上で別の問題が起きた。公平を期するため1次予選は総当たり戦。各チームから送られてきたプログラムを使って、プロコン委員の先生方が三郷工業の教室で実際に代理で対戦し本選出場チームを決める。しかし参加校は40~50チーム。「1000回前後の対戦を行う必要があり、徹夜しても1日では終わらず、予選に2~3日かかるようになってしまった」。

現行バージョンのCHaserOnlineは、そんな状況を打開するために生まれた。「オンライン対応に加え、1マップで8チームまでの同時対戦を可能にしただけでなく、複数ルームで同時に複数の対戦にも対応。得点の自動計算機能も加えた。オンラインでの自動実行機能も実装し「予選で徹夜」はなくなった。昨年11月に高校プロコンで登場した最新バージョンでは、1マップに8チーム同時対戦しつつ、さらに別々の4つのマップが同時並行して進行するという姿に進化した。

バージョンゼロからは格段の進歩を遂げたCHaserOnlineだが、課題もある。もう少しグラフィック表現を豊かにできないものだろうか。稲田先生は「開発当初から、アニメーションGIFが使える仕様になっている。実は前回試してみたが、まだマシンスペック的に厳しそうだ。ナチュラルなHTMLでありながら、グラフィックリッチなプラットフォームを目指すのも、一つの選択肢だとは思う」と話した。進化が続くCHaserOnline。次はどんな新機能で驚かせてくれるのか、楽しみだ。(ITジュニア育成交流協会・道越一郎)