ソニーのVLOGCAMが好調だ。日常を動画で記録したりYouTubeなどで情報発信する人たち、いわゆるVlogger(ブイロガー)向けに開発した一連の製品群だ。2020年6月、初号機のコンパクトカメラ、VLOGCAM ZV-1を発売。発売日が19日と月後半だったにもかかわらず、BCNの調べでは6月、同社カメラの販売台数の14.2%、販売金額では20.5%を占めるまでの人気を博した。さらに、2号機でAPS-Cセンサーを搭載するレンズ交換型 ZV-E10を21年9月に発売すると、構成比は急拡大。台数25.0%、金額28.8%まで上昇した。そして、この4月にはレンズ交換型フルサイズモデルのZV-E1、6月にはコンパクトの後継機ZV-1 IIを発売するなど、矢継ぎ早に新製品を投入。足元の5月ではVLOGCAMシリーズの販売台数が48.4%、金額が33.9%を占めるまでになり、ソニーのデジカメ事業の柱に成長した。VLOGCAM事業の責任者、ソニー イメージングエンタテインメント事業部の齋藤佑樹 シニアマネジャーに、成功の秘密を聞いた。
「2010年ぐらいから、特に若年層を中心に日常動画を投稿する人たちが増えている、という認識はあった」と話すのは、齋藤 シニアマネジャー。「VLOGCAMは、カメラ市場が急激に縮小する中、Vlogを軸に、若年層に使ってもらいたいカメラとしてリリースした」という。特に若年層は、スマートフォン(スマホ)での写真や動画撮影が当たり前の世代。カメラは縁遠い存在だ。カメラユーザーの高齢化も叫ばれて久しい。カメラ市場も、若年層に響く新しい軸を打ち立てなければ、高齢化し消えゆく運命は避けられない。そこで目をつけたのがVlog、というわけだ。
20年6月に初号機、ZV-1を発表するに先立って、カメラと思しき長方形の筐体の上に綿帽子のような「モフモフ」が乗ったシルエットを公開。「すべてのVloggerのために、新しいコンセプトのコンパクトカメラが登場」というコピーが躍った。「見た目のかわいらしさもあり、モフモフは目を引く。マーケティング的にも成功した。基本的には外で収録するVlogの音質を向上させるソリューション。カメラの部品としてモフモフを追加したのは初めて」(齋藤 シニアマネジャー)という。今ではVLOGCAMのアイコン的役割を果たすモフモフ。風によるノイズを軽減しカメラ内蔵マイクの音質を大きく向上させた。さらに「撮影者の音声もクリアに収録できるよう、3つのマイクを搭載し、チューニングした」。映像だけでなく、音も重要な要素であるVlogger向けカメラならではのアプローチだった。
VLOGCAMの2号機はZV-E10。APS-Cセンサーを搭載するレンズ交換型カメラだ。発売時、21年9月の平均単価は7万6000円。コンパクトのZV-1発売時の平均単価、9万8000円よりも安かった。さらに、発売前月の8月は、ソニーのレンズ交換型カメラの平均単価は14万3000円だったことからも、いかに安価なカメラかが分かる。この低価格戦略が見事に当たり、レンズ交換型カメラ市場の販売台数ランキングで常に1、2位を争う大ヒット商品になった。しかし、ここで難しいのが、この人気の理由が価格の安さにあるのか、Vlogger向けというコンセプトにあるのかが見極めにくい、という点だ。確かにVlogger向けというラベルでカメラは売れた。しかし、それだけで「それ動画だ」とばかり、Vloggr向けカメラに突進していいものか。
齋藤 シニアマネジャーは、「人気の理由には、確かに値段の安さもある。とはいえ、無理に安くしたわけではなく、利益も出ている。まずは動画から始めたいと、初めてカメラを買うお客様向けに、Vlogger向けというコンセプトが合致したのではないか」と話す。「我々が一番やりたいのは、クリエイターのすそ野を広げ、しっかり支援していくこと。特に若年層のクリエイター向けには、初めの一歩を踏み出すにあたってZV-E10は貢献している」と続けた。「ここから、プロ向け動画カメラのシネマラインに進んだり、写真で定評のあるαで写真を始めてみたり、といったことにつながるように願っている。そのためにも商品づくりに一貫性を持たせながら、動画だけでなく写真もしっかり撮れるカメラに仕上げた」。ZV-E10は、クリエイターのためのエントリーモデル、ともいえる位置づけだ。
VLOGCAMの3号機は、この4月に発売したレンズ交換型のZV-E1。フルサイズセンサーを搭載するトップモデルだ。ボディの重さは約483g。ソニーでは、フルサイズCMOSセンサーを搭載したカメラでは世界最小・最軽量のカメラとしている。さらに「シネマティックVlog機能」なども搭載し、動画撮影のプロ向けカメラの技術もふんだんに投入。一方で使いやすいメニュー体系はVLOGCAMシリーズ共通だ。しかし、発売時の平均単価が28万8000円と、これまでの10万円前後の価格帯から一気に3倍近くまで上昇した。価格の高さもあって、発売初月の売り上げはおとなしかった。高すぎるのではないかとの問いに、齋藤 シニアマネジャーは「このクオリティーであれば、妥当なラインと考える」と話す。高価格帯モデルをあえて投入した理由については「近年、Vlogであっても、より高いクオリティを求める、いわゆるシネマティックVlogのようなコンテンツが増えている。そのようなコンテンツづくりを求めるお客様に向けた商品としてリリースした。ステップアップを考えるユーザーに応える受け皿は必要だ」と語った。
初号機の発売から丸3年が経過した今月、ソニーは新モデルZV-1 IIを発売する。初号機で、35mm版24~70mm相当という焦点距離は使いづらいという意見を取り入れ、18~50mm相当と広角に強いレンズに変更。専用グリップをつけたままでもバッテリー交換ができるようにしたほか、端子にUSB-Cを採用するなどの改良を施した。「シネマティックVlog機能」も搭載する。齋藤 シニアマネジャーは「カメラを買って、ハイ終わりではいけない。日常のなかでどう使っていけばいいか、ユーザーと共に成長していくことを心がけ、そうした仕組みづくりも考える必要がある。持って歩きたくなるカメラを目指した商品づくりをしていきたい」と語った。ソニーは昨年あたりから、全社を挙げて「クリエイターの支援と育成」を掲げ始めた。こうした動きは、カメラ市場に限らず、デジタル製品全般の再活性化につながる、ひとつの好例と言えるだろう。(BCN・道越一郎)