2009年に初演、2010年にはロンドン、ニューヨークでも上演され、常に高い評価を受けてきた『ムサシ』。その「ロンドン・NYバージョン」での公演が、10月20日、埼玉・彩の国さいたま芸術劇場で千秋楽を迎えた。本作は今秋の大阪、シンガポール公演に続き、早くも来春には東京・シアターコクーンを皮切りに、韓国、広島、長崎、金沢での上演も決定している。
1612年、宮本武蔵と佐々木小次郎との一騎打ちは、武蔵の勝利で幕を閉じた。世に言う“巌流島の決闘”である。それから6年後、鎌倉にある宝蓮寺では、今まさに寺開きの参龍禅(さんろうぜん)が行われようとしていた。そこには寺の作事を務めた武蔵の姿も。すると突如寺に小次郎が現れ、武蔵に果し合い状を突きつける。ふたりの再対決は、3日後の朝に決まるのだが……。
吉川英治の小説『宮本武蔵』を原案に、井上ひさしが書き下ろし、蜷川幸雄が演出を手がける『ムサシ』。巌流島の後日談として書かれた本作は、天下一の剣豪と言われた宮本武蔵、佐々木小次郎のふたりを、その瑞々しいせりふによって、なんとも愛らしく、また人間くさく描き出している。さらにふたりを取り囲む人々も、ひと筋縄ではいかない、強烈な個性を持った面々ばかり。井上らしい笑いも随所に盛り込まれ、驚きのラストまで、怒涛のごとく物語は展開していく。
武蔵役を演じるのは、初演からの参加となる藤原竜也。すっかり役柄が体になじみ、呼吸するかのように、武蔵として舞台上に立つ。また柳生宗矩役の吉田鋼太郎ほか、寺の大檀那である木屋まい役の白石加代子、同じく筆屋乙女役の鈴木杏らの初演組、再演からの続投となる沢庵宗彭(=沢庵和尚)役の六平直政との息もぴったり。笑いどころも決して外すことがない。また今回、小次郎役に抜擢されたのは溝端淳平。真っすぐで熱い小次郎というキャラクターは、初の蜷川演出のもと、体当たりで挑む溝端自身にも通じるようだった。
数々の笑いが散りばめられた本作だが、その根幹にあるのは、人々の心に絡みついた“恨みの鎖”とどう向き合い、いかにして断ち切るかということ。そしてそれは、物語の中だけで起き得ることではない。今なお世界中で戦争が絶えない、現代にも確実に通じる問題である。そのひとつの答えが、この『ムサシ』の中にあると言えるだろう。
初となる東京公演の開幕は、2014年3月7日(金)。またも『ムサシ』が、多くの観客を魅了することになるはずだ。
取材・文:野上瑠美子
■『ムサシ』ロンドン・NYバージョン 東京公演
日程:2014年3月7日(金)~ 2014年3月15日(土)
会場:シアターコクーン(東京都)