中村勘九郎と中村七之助ら中村屋一門が2005年から毎年行っている全国巡業公演。今年は『春暁特別公演』 に続き、10月に『錦秋特別公演』が開催される。元々はファンから「地方にいるとなかなか歌舞伎を観に行くことができない」という手紙をもらったことで、「自分たちで全国各地に足を運ぼう」と始まった公演。2022年には47都道府県制覇も達成し、歌舞伎初心者でも楽しめる公演としてすっかり定着した格好だ。見どころについて勘九郎と七之助に聞いた。
幕開きは、人気の「トークコーナー」から。勘九郎と七之助が演目を解説し、3年ぶりに質問コーナーも復活する。
「歌舞伎の題名は漢字ばかりで難しいと思われがちなので、まずは分かりやすく解説して、心の垣根を取り払いたいなと(笑)。久しぶりの質問コーナーでは、やっとお客様とじかにやりとりできるのが嬉しいですね」と勘九郎。隣の七之助も「以前、お客様に『この後ごはんを食べに行きたいんですけど、どこがオススメですか?』と“逆質問”したことも(笑)。実際に2人で伺ったお店もあるんですよ」と笑顔を見せる。
続いての『女伊達』は、江戸っ子の女伊達が上方の男伊達たちを前に威勢の良さを見せる、華やかな舞踊。注目の若手、中村鶴松が女伊達を演じる。「鶴松は最近メキメキと実力をつけていて踊りも達者。今回はあえて、スッと立っているだけでかっこいい女性の役をやりたいと言うので驚きました。彼のそんな役どころをあまり観たことがないので、私も楽しみなんです」と七之助は頼もしげに語る。
最後は『天日坊』の一場面として描かれた浦島太郎と乙姫の物語を舞踊劇にした、『桑名浦乙姫浦島』(くわなのうらおとひめとうらしま)。舞踊としての上演は実に156年ぶりというから驚きだ。
浦島役の勘九郎は「資料が残っていないので、浦島が題材の舞踊を皆で調べながら作っているところ」と苦労を語りつつ、「ご家族で楽しんでいただけるものを、という気持ちは毎回変わらないので、今回はタイやヒラメに加えてタコも出すことに。お子様も無理なく楽しめますよ」と話す。乙姫役の七之助も「皆で一所懸命作って、それをお子様から年配の方まで楽しんでいただくのが特別公演」と口を揃えた。
歌舞伎ファンにとっても、特別公演は貴重な演目が観られる機会だ。勘九郎は「出来上がるまでは大変ですが、作品をうまくお客様に届けられた瞬間は格別。今後もずっと続けていきたい」と意気込んだ。
取材・文:藤野さくら