歌舞伎など日本の伝統芸能に若い世代にも一定数のファンがいる現代ながら、日本舞踊には古典的で堅苦しいイメージが残っているといわざるを得ない。そうした固定概念を打破すべく、市川染五郎(現・松本幸四郎)らが「未来座SAIシリーズ」を立ち上げたのが昨年のこと。
「SAI」とはSuccession And Innovation(=継承と革新)を指し、日本舞踊の未来を見据える上でも重要な活動といえそうだ。その第2回公演「裁(SAI) カルメン2018」が6月に上演される。まさに革新的な日本舞踊でホセ役として舞うのは、歌舞伎俳優・中村橋之助。「日本舞踊は小さいときから大好きです!」とハツラツと語る彼に、22歳の青年ならではの視点で日本舞踊の魅力を語ってもらった。
歌舞伎の家系に生まれた者として自然に日本舞踊に触れ、幼い頃から稽古が楽しみだったそう。「1年に1回、運動会が終わった後にお稽古に行かなきゃならないときは『どうして僕だけ』なんて思いましたけど(笑)、行きたくないと思ったのはそれぐらい。稽古場に行っておやつを食べておしゃべりをして、お稽古をして帰ってくるっていうのが遊びみたいで楽しかったから、『楽しい』という感覚が今も続いているんだと思います。そして僕の踊りの師匠である梅彌の伯母(=中村梅彌。実の伯母でもある)の踊りがきれいでかっこよくて、あんな風に踊れるようになりたい憧れがずっとありました。日本舞踊は、踊る人の感情が最大限にあふれた表現。例えばドラマとかは、どんなにかっこいい人が出ていても筋が面白くないとつまらない。でも日本舞踊はやる側も観る側も単純に、その感情で自分をあふれさせられる楽しさ、心地よさがあるんです」
「カルメン 2018」はそんな、日本舞踊に親しんだ橋之助にとっても大きな挑戦だ。創作舞踊は未体験で、女性との舞台共演も初となる。「歌舞伎では、男性である女形さんを舞台上では本当に好きになりますが、いざ本当の女性相手の場合、それと同じなのか同じじゃないのか、僕自身もまだわかりません。ただ、遠慮せずにやりたいなと思います。ぼたんのお姉ちゃま(=市川ぼたん。カルメン役)は、きっとドンと受け止めてくださる。役のホセが一途ですから、あちらが恥ずかしくなるぐらい(笑)、思いっきり行きたいですね。ホセはカルメンがすごく好きなのに愛し方を知らなくて、いろんな事件を起こしてしまう。僕も結構やきもち焼きですし(笑)、初めて人を好きになったときの気持ちを思い出しながらやってみようと思っています」
公演は6月22日(金)から24日(日)まで東京・国立劇場 小劇場にて。なお、本公演のカルメン役は市川ぼたんと水木佑歌、ホセ役は中村橋之助と花柳寿楽のWキャスト。
取材・文:武田吏都