撮影:山崎伸康

大島真寿美の同名小説を舞台化した、asatte produce『ピエタ』が、7月27日(木)、東京・本多劇場で開幕。そのゲネプロの模様をレポートする。

舞台は18世紀のヴェネツィア。ピエタ慈善院に仕えるエミーリアのもと、かつての音楽の師で、作曲家のヴィヴァルディの訃報が届く。そして同じくピエタで彼に学んだヴェロニカのもとを訪ねたエミーリアは、ある探し物を頼まれて……。

本作のプロデューサーであり、エミーリア役として出演もしている小泉今日子念願の企画がついに実現。五線譜をイメージさせる、曲線の美しいセット。向島ゆり子が音楽監督を務める、生演奏の心地よい音色。そして白ベースの衣裳をまとった、8人の女性の演者たち。幕開けに広がるその静謐で清らかな空気に、観る者は一瞬にして『ピエタ』という作品世界へと引き込まれていく。

物語の始まりは1枚の楽譜。貴族の未亡人であるヴェロニカは、かつてその裏面に詩を書き綴ったヴィヴァルディの楽譜を探して欲しいと、幼馴染のエミーリアに依頼する。その楽譜探しがエミーリアにもたらしたのは、決して懐かしい人との再会だけではない。思いもよらないコルティジャーナ(=高級娼婦)・クラウディアとの出会い。そして常にその影には、ヴィヴァルディの存在が。1枚の楽譜探しの旅は、いつの間にかヴィヴァルディの足跡を辿る旅へ。そしてヴィヴァルディという糸は、エミーリアからクラウディア、さらにヴェロニカをも結びつけ、そこに不思議な友情を芽生えさせていく。

エミーリア役の小泉は、全体を繋ぐ抑えた演技の中、愛する者への邂逅シーンで見せた切ない表情が印象的。ヴェロニカ役の石田ひかりは、凛とした佇まいが貴族そのものだが、意外な友情で結ばれたクラウディアとのやり取りは、まるでおしゃべりを楽しむ少女のよう。クラウディア役の峯村リエは、スッとした立ち姿と落ち着いた声に、経験豊富なコルティジャーナとしての知性を滲ませた。

またプリマドンナのジロー嬢役の橋本朗子とヴィヴァルディの愛弟子アンナ・マリーナ役の会田桃子は、それぞれ現役のソプラノ歌手とヴァイオリニスト。劇中の歌唱や演奏はもちろんふたりが担い、そこに演奏者ふたりの音が重なる。これは、ヴィヴァルディの音楽に引き寄せられた女性たちの物語。そこに生の音楽は欠かすことが出来ず、作品を何倍にも豊かに、美しく彩っていた。

そして本作はこんな台詞で幕を閉じる。「娘たち、よりよく生きよ」と。それは18世紀から届いた、現代を生きる“娘たち”への優しい応援歌に思えた。

取材・文:野上瑠美子