撮影:阿部章仁

田尾下哲が脚本・演出を手がける朗読劇シリーズの最新作『革命への行進曲(マーチ)~モーツァルト VS 検閲官~』が、8月1日(火)、TOKYO FMホールで開幕した。その初日の模様をレポートする。

舞台は1785年のウィーン。宮廷検閲官のヘーゲリンは、オペラ『フィガロの結婚』の担当検閲官を命じられる。『フィガロの結婚』が、君主に対する臣下の不敬を描いた作品にも関わらず、オペラ版の創作が進められたのは、その作曲家が皇帝ヨーゼフ二世の寵愛を受けるモーツァルトであるがゆえ。それでもヘーゲリンは徹底的に言葉による検閲を行うが、モーツァルトはその要求を柔軟に受け入れていき……。

中央に作品を象徴するかのような1台のグランドピアノが据えられ、その前には5本のマイクスタンド。初日のこの日は、山口智広、神尾晋一郎、中澤まさとも、竹内栄治、小澤亜李がキャストとして名を連ねた。近年動きやSEなどを多用した朗読劇も多いが、本作の作りは非常にシンプル。その分、劇世界に深みとリアリティを持たせるためには演者の高いスキルは欠かせないが、この5人にその心配は不要だったようだ。

物語としては、検閲官と創作者の攻防を描く人間ドラマ。と同時に、モーツァルトという作曲家の才能について改めて感嘆させられるドラマでもある。言葉の検閲だけに止まらず、音楽を学び、楽譜までも検閲することにしたヘーゲリン。だが軽々とその上をいく天才モーツァルトに対し、それまで芸術とは無縁だった彼がこうつぶやくのだ。「モーツァルトの天才に、目眩がしそうだ」と。

ヘーゲリン役の山口は、厳格な検閲官という役どころを、抑揚を抑え、少し硬さのある声で表現。そこにヘーゲリンという男の、仕事に対する信念や自信を伺わせる(だからこそ後半への変化が活きてくる)。その真逆をいくのが、神尾演じるモーツァルト。彼の音楽が讃えるのは、フランス革命のスローガンともなった「自由・平等・友愛」。だがそれは彼自身を表現した言葉とも言え、神尾の明るく、茶目っ気があり、生命力あふれる声は、まさにモーツァルトそのものだった。

また親モーツァルト派のスヴィーテン男爵を中澤が、『フィガロの結婚』の台本作家のダ・ポンテを竹内が好演。さらにルイーザ、ピアニスト、ヘーゲリンの秘書を演じた小澤含め、複数の役を担当するこの3人の演じ分けも楽しい。さらに本作には全42人もの声優が日替わりで参加しており、その組み合わせの違いも大きな魅力となっている。

【公演情報】
朗読劇「革命への行進曲」~モーツァルトVS検閲官
公演期間:8月1日(火)~8月6日(日) TOKYO FMホール
※8月4日(金)19:00公演、8月5日(土)19:00公演は配信あり

取材・文:野上瑠美子