高羽彩の演劇プロデュースユニット「タカハ劇団」。その次回作で、昨年全公演中止となった『ヒトラーを画家にする話』をついに上演する。そこで脚本・演出の高羽と、板垣健介役の渡邉蒼に話を訊いた。
インパクトのあるタイトルだが、創作のきっかけを高羽に訊くと…。「あるドラマの脚本を書いていた時、監修に入られていた現役の高校の先生から、『今時の高校生はアウシュヴィッツと聞いてもあまりピンとこない』と聞かされたんです。それ、絶対に良くないじゃん!と思って。若い世代の人がヒトラーを知るきっかけに、そして自分事として捉えて欲しいと思ったことが大きな動機です」
美術大学4年生の3人が、ひょんなことから1908年のウィーンへタイムスリップ。青年ヒトラーと出会い、彼を画家にして独裁者への道を断とうと奮闘する物語だ。渡邉が演じるのはその美大生のひとり。「これは僕が高羽さんの脚本が大好きな理由のひとつですが、変に学びを強要したりせず、温かさのある作品だと感じました。板垣に関しては、渡邉蒼の心に正直に演じられる役だなと。ただのタイムスリップアドベンチャーにしないためにも、お客様を置いてけぼりにせず、一緒に肩を組んでラストに行くためにも、大切な役割ではないかと感じています」
前回、上演直前まで稽古を重ねたメンバーは、誰ひとり欠けることなく今回も参加。「奇跡のようなカンパニーだと思います。若い方たちは物怖じせず、自分たちからアイデアを持ってきますし、大人たちはその熱に水を差さないよう構えていてくれる。その中で渡邉さんは、相手に与えることも出来るし、受け取ることも出来て。役者として完成している感じは、とても最年少とは思えないほど。たぶん人生5周目に突入していると思います」と高羽は笑う。
渡邉は「自分ってすごく普通な人間だと感じます」と自己分析するが、本作にそれはプラスに働きそうで…。「僕ら美大生3人って、トリオ史上最も頼りないトリオだと思うんです(笑)。でもそれがある意味リアルですし、観た方もかつての自分に重ねられるところが多いのではないかと思います」。さらに高羽は、最後にこう語る。「歴史は他人事ではなく、劇場にいる一人ひとりの選択の積み重ねによって作られている。その事実を、今一度思い出してもらえたらと思います」
またタカハ劇団では、「選択肢の多様性が社会の豊かさ」という高羽の想いのもと、鑑賞サポートも充実。ぜひ必要な方に届いて欲しい。公演は9月28日(木)~10月1日(日)まで。
取材・文:野上瑠美子