木ノ下歌舞伎による『勧進帳』が2023年9月1日から東京芸術劇場シアターイーストにて開幕する。2010年初演、16年に再創作され、フランス・パリ公演でも好評を博した本作。義経一行の関所越えを描いた忠義の物語を大胆に再構築し、既成概念を打ち破った快作がいよいよ東京で初上演される。

「僕としては一生かけて、ずっとやり続けていきたい作品。このメンバーで命尽きるまで、このキノカブ版『勧進帳』が古典になるまでやり続けたい」と出演する坂口涼太郎は熱い思いを話す。2016年のまつもと大歌舞伎で上演したときからすでに「これはずっと残っていく作品になると感じました。絶対ここだけで終われないし、終わらせてはダメだと思ったんです」と坂口は手応えを感じていたというが、「(前回の)2018年から5年が経って、みんなちょっとずつ変化していると思うんです。そのときベストだと思っていたことがベストでなくなっているかもしれない。大幅に何かを変えるわけではないと思いますが、新鮮な気持ちでまた作品と向き合いたいです」。

古典を現代の視点でリフレーミングする木ノ下歌舞伎。16年に再創作した際は、歌舞伎の『勧進帳』を“完コピ”する稽古から始まったそうで、「2週間ぐらいかけてすべてをコピーして、発表して。(演出の杉原)邦生さんの現代語訳台本を読みながら、みんなで意見を出し合って作って、トライアンドエラーを重ねてつくっていきました」(坂口)。今回も“完コピ”稽古が予定されているようだが、「歌舞伎の『勧進帳』は長年研ぎ澄まされて残された、ベストのもの。あの間合いや台詞回し、動きに一度立ち返らないと、目指すものが分からなくなる。完成されている古典の『勧進帳』を体に思い出させてこそ、現代版の僕たちの『勧進帳』が仕上がっていく」と坂口は言う。

タイトルなどから「難しい」と感じる観客もいるかもしれないが、坂口は「安心してください。マジで娯楽の作品ですから」と話す。「古典の『勧進帳』を知らなくても全然大丈夫です。もちろんご存知の方はフィードバックしてから観に来てくださってもいいのですが、そういう“頑張り”がストレスと思う方は全然しなくて大丈夫。桟敷席でお煎餅を食べながら観るぐらいの気持ちで(笑)、楽しんで」。

東京公演は9月24日まで。そのほか沖縄、上田、岡山、山口、水戸、京都公演が予定されている。

取材・文・撮影:五月女菜穂
スタイリスト :東 正晃