写真提供:NHK

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「らんまん」。“日本の植物分類学の父”牧野富太郎博士をモデルに、愛する植物のため、明治から昭和へと激動の時代をいちずに突き進む主人公・槙野万太郎(神木隆之介)の波瀾(はらん)万丈な生涯を描く物語だ。物語が終盤に差し掛かりつつある今、「語り」として物語を見守ってきた宮崎あおいが、収録の舞台裏や作品への思いを語ってくれた。

-宮崎さんはこれまで「純情きらり」(06)や「あさが来た」(15~16)などの朝ドラに出演されていますが、「らんまん」の「語り」としてオファーを受けた時のお気持ちは?

 このようなかたちで再び朝ドラに参加させていただけることが、とてもうれしかったです。台本を開いてみたら、以前お世話になったスタッフさんのお名前もあったので、すぐに「やりたいです」とお返事しました。NHKに来ると、10年ぶりにお会いするスタッフの方もいて、廊下を歩いているだけでも楽しくて。今も変わらず、「あの時は楽しかったね」とお話しできるのは、これまで一緒にお仕事させてもらったおかげだと思います。そういういろんなご縁がつながって、「らんまん」に参加させていただけたことが、すごく幸せです。

-収録の際に心掛けていることは?

 朝ドラは、いろんな世代の方がご覧になっているので、「聞き取りやすさ」を心掛けています。その上で今回は、例えば主人公のお母さん役、というような設定があるわけではないので、「近すぎず、離れすぎず」の距離感で、客観的に物事を伝えることを意識しています。

-収録中、思わず感情が乗ってしまった場面などはありますか。

 やはり、人が亡くなるときは、どうしても感情が乗ってしまいます。だから、最初に台本を読んだとき、一度泣いておいて、収録のときは俯瞰(ふかん)で見られるようにして。園ちゃん(万太郎と寿恵子の長女・園子)のときもそうでしたが、子どもが亡くなるのは、耐えられません。ただ、感情を乗せすぎないようにしながらも、どうしても乗ってしまうときは、それでもいいかなと思っています。何かあれば、監督から「こうしてください」と指示をいただけるのでその都度修正していきました。

-声の調子を保つために心掛けていることはありますか。

 週に一度、収録に参加しているのですが、常に喉をいい状態に保つ難しさを初めて知りました。どれだけ気を付けていても、どうしても調子がよくないときもあるので、喉にいいお茶を飲んでみたり、蜂蜜をなめてみたりと、試行錯誤しながら早めに対処するようにしました。普段から声のお仕事をされている方のすごさを改めて感じました。

-主演の神木さんの印象はいかがですか。

 神木さんの座長ぶりは素晴らしいです。私も時々、現場に顔を出すことがありますが、そのとき、「ようこそ」と両手を広げて歓迎してくれるような温かい雰囲気があって。その様子を見ていると、きっと周りを引っ張っていく座長としての振る舞い方も素晴らしいのだろうなと思います。もちろん、すてきな役者さんですし、神木さん自身が心から楽しんで演じられているからこそ、物語がより膨らみ、こんなに魅力的な主人公になったんでしょうね。おかげで私も、すっかり万太郎のファンです(笑)。

-寿恵子を演じる浜辺美波さんの印象はいかがですか。

 浜辺さんは、芯のあるところがすごく魅力的で、万太郎を支えるすてきな奥様を演じられていらっしゃいますよね。寿恵子さんを見ていると、女の人の強さを思い知らされますし、きゃしゃでかわいらしい人なのに、そういう芯の強さが伝わるのは、浜辺さんが演じているからこそ。研究に夢中な万太郎に、お布団を敷いて「お休みにならないんですか」と声を掛けたのに、振り向いてくれなくて、1人でかわいらしく怒っているシーン(第68回)がすごく好きでした。

-万太郎と寿恵子の夫婦の印象は?

 ただ植物に夢中なだけの万太郎は、寿恵子さんがいるおかげで、きちんと食事をとり、眠ることができていると思います。でなければ、体も壊していたでしょうし、周囲との関係も、こんなにうまくいってなかったかもしれません。そう考えると、肝の据わった寿恵子さんがいたからこそ、万太郎はより愛される人になったような気がします。かわいい夫婦だな、と思いながら、2人が一緒に年を重ねていく姿を楽しく拝見しています。

-ドラマを見ながら、特に感情移入している登場人物はいますか。

 好きな登場人物がたくさんいるので、誰か1人に感情移入しているということはありません。万太郎だけでなく、脇を固められている役者さんたちも皆さん、生き生きとしてすてきだと思います。

-「語り」を務めたことで、改めて気付いた朝ドラの魅力はありますか。

 「語り」の方が、より朝ドラを俯瞰で見られるので、自分が出演しているときよりも、隅々まで作品を楽しめている気がします。出演していると、どうしても自分の役の感情や立場を通して、他の方を見る形になってしまうので。好きな登場人物がたくさんいるのは、そんなふうに、より視聴者に近い立場で見ているおかげかもしれません。

-それでは最後に「らんまん」の視聴者に向けてメッセージを。

 今後、思いがけない再会もありますし、さらに家族も増え、万太郎と寿恵子の周りはますますにぎやかになっていきます。私も「語り」として「らんまん」を見守っていますが、視聴者の皆さんにも、それぞれの登場人物がすてきな人生を送り、歳を重ねていく姿を一緒に見守っていただけたらうれしいです。ぜひ最後まで楽しんでください。

(取材・文/井上健一)