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戦後の歌舞伎の礎を築き、“大播磨”と称された初世中村吉右衛門を顕彰して、2006年から始まった「秀山祭」。今月の「秀山祭九月大歌舞伎」は、希代の名優であり、ドラマ『鬼平犯科帳』でもお茶の間に親しまれた二世中村吉右衛門の三回忌追善として開催中。昼の部(11時開演)は時代物の傑作『祇園祭礼信仰記 金閣寺』と、舞踊劇『土蜘』、秀山十種の内『二條城の清正 淀川御座船の場』。夜の部(16時30分開演)は古典の様式美あふれる『菅原伝授手習鑑 車引』と、舞踊『連獅子』、新歌舞伎の名作『一本刀土俵入』。昼夜共に「秀山祭」を牽引してきた吉右衛門ゆかりの演目と出演者がそろった。

今回は、絢爛の金閣寺を舞台に展開する『祇園祭礼信仰記』に注目したい。“国崩し”と呼ばれる、国を転覆させてわが物にしようとする悪人の松永大膳と、知略にあふれた二枚目の武将・此下東吉(史実の羽柴秀吉)。さらに女方の大役で“三姫”のひとつといわれる雪姫、この3人を中心に物語は進む。大膳の中村歌六は、7月に人間国宝に認定されたばかり。今回が初役ながら“国崩し”にふさわしい大きさと不気味さを漂わせて芯を勤める。そんな大膳に、ある計画をもって近づく東吉には中村勘九郎。すっきりとした立ち姿に余裕のある微笑みもさることながら、時折顔をかすめる怜悧な表情に、ただ者ではないオーラが香る。

雪姫には若手の中村米吉と中村児太郎がダブルキャストで挑んでいる。取材した初日は米吉で、これが初役。吹輪(ふきわ)のかつらに雪輪と桜があしらわれたトキ色の振袖がよく似合い、その美しさには客席からため息が。大膳が父の仇と知り、嘆き悲しみつつも、けして屈しないと力強く決意する場面や、縄に縛られながらも大膳に引き裂かれた夫・直信(尾上菊之助)を必死に見つめてあふれる想いを表すシーンなど、観る者をグイグイと引き込んでゆく。桜の花びらを爪先でかき集め、ついに奇跡を起こす“爪先鼠”の場面では、観客から思わず拍手が沸き起こった。

昼の部は他に、松本幸四郎が緩急自在に魅せる『土蜘』や、加藤清正(松本白鸚)と豊臣秀頼(市川染五郎)のやりとりが、実際に祖父と孫である演者の関係性を思わせて味わい深い『二條城の清正』。夜の部は、中村又五郎、歌昇、種之助親子の『車引』、菊之助と丑之助が親子で初めて挑む『連獅子』。幸四郎と中村雀右衛門の世話物で泣かせる『一本刀土俵入』まで、見応え充分の九月となった。

取材・文:藤野さくら