撮影:源賀津己

オリジナル話芸である「鶴瓶噺」は、昨日の出来事さえもネタにするが、笑福亭鶴瓶の「落語」は違う。今回の落語会のトリを飾る予定である『芝浜』は、月日を重ねて練りあげ中だ。まずは、東京の大作を選んだ理由から話を聞いた。

「『芝浜』は、(桂)南光兄さんが『鶴瓶ちゃん、絶対あうわ!』とすすめてくれて。上方落語では『夢の革財布』と改題されて、住吉の浜での物語となっているんですね。でも、僕は東京の『芝浜』がやりたかった。だから、大阪の立派な魚屋の息子が江戸の女性と恋に落ちるも親に勘当されて芝浜へ……という設定にして。魚屋って江戸っ子の中の江戸っ子でしょ? 大阪の男はみんなにやりこめられたりして、酒を飲んでダメになる。でも、男には素晴らしい嫁さんがいた。そんな夫婦の情を大晦日の1日に凝縮させているのが、『芝浜』の魅力だと思うんです。自分なりにですけど、あの夜の一瞬を描きたくて」

型のある古典落語でも自分流のアレンジを加える笑福亭鶴瓶。芸事におけるこだわりは、「自分で決めたい」ということ。笑いはそれぞれ。その勝ちや価値を誰かに決められたくない。視聴者としては大好きだが、もしいま若手だったとしても賞レースには「絶対出ない」と即答した。ではもし、決めるのは他者である〝人間国宝〟に選ばれたとしたのなら?

「いやいやいや、なりたくないです。もし、それがきたとして……絶対こないよ。でも、もしきたとして、『もらいます』と言うのは僕じゃないですか。そんな返事をしたら、どれだけみんなに『なにを偉そうに!』と怒られるか。『お前、いままでなにしてきたと思ってるんだ?』って(笑)。偉そうで言えば、言葉もそういうところがあると思います。『“縁は努力”って名言ですね!』とか言われることがあるんですけど、たまたまある時にそう思って口にしただけですから。だからもし、最近のたまたまを口にするのなら“順番に順番に”かなぁ。やらなきゃいけないことがたくさんある時に横に並べてしまうとどうしていいかわからなくなる。でも、縦に並べるとひとつのことに集中できる。そのやり方は昔からなんですけど、最近は“順番に順番に”と言葉にすることで、より楽になれている気がします」

順番に順番に。『妾馬』や『山名屋浦里』がかけられた笑福亭鶴瓶落語会で、今年の順番は『芝浜』がトリを飾る予定である。「自分で決めたい」男の心変わりがないのならば。

取材・文:唐澤和也

【公演情報】
笑福亭鶴瓶落語会
公演期間:10月20日(金)~12月12日(火)
会場:京都・大阪・岡山・新潟・福岡・東京・沖縄公演
一般発売:9月16日(土)10:00~より順次発売