新国立劇場バレエ団が古典の傑作『ドン・キホーテ』を上演する。2023/2024シーズンの開幕を飾るこの舞台では、5組の主演カップルが日替わりで登場、華やかな競演が繰り広げられる。バレエ団の最高位、プリンシパル昇格後初の主演舞台としてヒロイン・キトリ役にのぞむ柴山紗帆と、パートナーとしてバジル役を踊る井澤駿に、いまの思いを聞いた。

「皆さまに祝福していただいて実感が湧いたと同時に、責任やプレッシャーも強く感じるようになりました」と笑顔を見せる柴山。6月の『白鳥の湖』終演後、柴山の翌シーズンからのプリンシパル昇格が発表された時のことだ。舞台上に呼ばれ、拍手に応える彼女の晴れやかな表情は忘れ難い。今後の目標を尋ねると、「物語をいかにお客さまに届けられるか、もっと深いところまで考えていきたい」。

そんな柴山の昇格を、「ずっと努力している姿を見てきたので、とても嬉しい」と話す井澤。同い年で2014年に同期入団した二人は、十代の頃に通っていたスタジオも同じだった。入団3年後に早くもプリンシパルとなった井澤のことを、「誇らしく思っていた」と柴山はいうが、井澤自身は「恵まれていました。でも、むしろ難しいと思うのはプリンシパルになってからその先。ブラックホールの中を突き進むような自分との戦いの連続で、そうしている間に毎年新しいシーズンを迎えていた」と振り返る。「どのシーズンも、目の前のこと一つひとつに、大切に向き合っていくことがダンサーとしての目標です」。

これまでも度々一緒に踊ってきた二人だが、『ドン・キホーテ』で組むのは初めて。「この二人にしかできないものが出せたら」と柴山はいう。「今までバレエ・ブランのような正統派の演目で一緒に踊ってきましたが、今回初めてコメディでペアを組むので、また新しいものが見えてくるのではと思います。別の日には街の踊り子という大人びた女性も踊るので、どう踊り分けるかも試行錯誤していきたいです」。井澤も「僕も別日程でエスパーダを演じます。皆が憧れる、町で一番カッコいい男性ですから、そこは振り切ってやりますが(笑)、バジルもエスパーダに張り合うくらい大人っぽく演じてもいいのかなと──いや、これはリハーサルで探っていきます!」。果たしてどんな演技で魅せてくれるのか、注目したい。公演は10月20日(金)から新国立劇場 オペラパレスにて。チケット発売中。

取材・文:加藤智子