(C)かわぐちかいじ/講談社 (C)2023 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.

『沈黙の艦隊』(9月29日公開)

 日本近海で、海上自衛隊の潜水艦がアメリカの原子力潜水艦に衝突して沈没する事故が発生。乗員76名が全員死亡したとの報道に衝撃が走るが、実は乗員は生存しており、衝突事故は日米が極秘裏に建造した日本初の高性能原子力潜水艦「シーバット」に彼らを乗務させるための偽装工作だった。

 だが、艦長の海江田四郎(大沢たかお)はシーバットに核ミサイルを積み、アメリカの指揮下を離れて深海へと姿を消す。海江田をテロリストと認定し、撃沈を図るアメリカ第7艦隊。一方、アメリカより先に捕獲するべくシーバットを追う海自のディーゼル艦「たつなみ」の艦長・深町洋(玉木宏)は、海江田に対して複雑な思いを抱いていた。

 1988~96年に漫画週刊誌『モーニング』に連載された、かわぐちかいじの同名漫画を、大沢がプロデューサーも兼ねて実写映画化した。

 かつてアニメ化はされたが、ストーリーやテーマのスケールの大きさから実写映画化は難しいとされた題材が、CGや特撮の発達によってついに映画化された。

 これは一種のポリティカルフィクションだが、肝心の潜水艦の描写がお粗末なら話にならない。その点、この映画の特撮には目を見張るものがあった。

 また、アニメ業界で奮闘する人々の姿を描いた『ハケンアニメ!』(22)の吉野耕平監督が、前作とは180度違う大作を見事にものにしていたのには驚いた。

 惜しむらくはアメリカ側のキャストが弱すぎる点。スターとまでは言わないが、せめて達者な脇役クラスでも使ってくれたら、印象も随分変わったと思う。

 また、原作発表からかなりの年月がたち、現代にはそぐわないと思ったのか、原作の男性キャラクターを女性に変えたり、原作にはない女性キャラクターを新たに創作しているが、かえって不自然な印象を受けた。なぜ男たちのドラマのままではいけないのか。この場合は、要らぬ忖度(そんたく)という気がした。

 ところで、これはあくまで序章で、当然続編ができるような終わり方だったが、果たして…。

『BAD LANDS バッド・ランズ』(9月29日公開)

 舞台は大阪。「名簿屋」の高城(生瀬勝久)に雇われている橋岡煉梨(通称ネリ=安藤サクラ)は、オレオレ詐欺の受け子を手配し、指示を出す“三塁コーチ”と呼ばれる役割を担っている。一方、刑務所から出所したばかりの弟の矢代穣(通称ジョー=山田涼介)は、高城に仕事を紹介してもらおうと姉を頼ってきた。

 2人で仕事をすることになったネリとジョーだったが、ある夜、思いがけず3億を超える大金を手にしたことから、さまざまな巨悪から命を狙われることになる。

 原田眞人が監督・脚本・プロデュースを務め、黒川博行の小説『勁草(けいそう)』を映画化したクライムサスペンス。同じ原作者の『後妻業の女』(16・鶴橋康夫監督)同様、大阪を舞台にしたピカレスクロマン(悪漢映画)の趣がある。

 原田監督は古今東西の過去の映画からの影響を語ることが多いが、今回は、タイトルは殺人を繰り返しては逃亡する男女の逃避行を描いたテレンス・マリック監督の『地獄の逃避行』(73)の原題「Badlands」から取ったという。

 また、マーティン・スコセッシ監督の一連の犯罪物に見られるような、矢継ぎ早に繰り出されるせりふ(大阪弁)、スピーディーに動き、時にはぐるぐると回るカメラワークなどが印象に残った。

 そして、脇役が目立つのも原田映画の特徴の一つ。今回も主役の姉弟(安藤、山田が大熱演)に絡む、元やくざ役の宇崎竜童、裏の顔を持つNPO法人理事長役の生瀬勝久、大阪府警の刑事役の吉原光夫、同府警の班長役の江口のりこらが面白い味を出している。

(田中雄二)