撮影:黒豆直樹

新国立劇場の2023/2024演劇シーズンが、シェイクスピアの作品群の中でも“問題劇”、“ダークコメディ”と呼ばれる『尺には尺を』、『終わりよければすべてよし』の交互上演という新たな試みで幕を開ける。初日を約3週間後に控えた9月下旬、稽古場に足を運んだ。

この日、行われたのは『尺には尺を』の稽古。旅に出る公爵(木下浩之)の代理でウィーンの統治を任されたアンジェロ(岡本健一)が、法を杓子定規に解釈し、婚前交渉を禁ずる姦淫罪でクローディオ(浦井健治)に死刑を宣告したことから、浮かび上がる様々な人間の欲望や矛盾を描き出す本作。

まずは序盤、旅に出たはずの公爵が、修道院の神父(内藤裕志)を訪ね、アンジェロにウィーンの統治を託した理由を説明するシーン。さらに、アンジェロの人間性について「あまりにも謹厳」「血が通っているとも思えず」などと評す。

演出の鵜山仁は俳優陣に、公爵の言動や意図について「アンジェロを実験材料に、人間がどういうものかを知りたいんじゃないか。他者を裁く局面で、厳格な人間性が和らぐのではという期待もあるし、それは自分の導きにもなるという思いもあるんじゃないか」と語る。このように俳優陣と解釈について対話を重ねつつ、落とし込んでいくのが、このカンパニーの特徴と言える。この日も、シーンの合間にソニンが鵜山に質問をぶつけ、話し込む姿が見られた。

続いて、行われたのは主要人物が一堂に会してのクライマックスのシーン。クローディオの妹のイザベラ(ソニン)が、アンジェロの下劣な振る舞いを公爵に訴え、さらに、アンジェロのかつての婚約者・マリアナ(中嶋朋子)らも登場し、公爵の真の意図が明かされるなどし、物語が結末に向かって動き出していく。

鵜山は、気づいたことがあればすぐに芝居を止め、ニュアンスや細かい立ち位置の修正を伝える。俳優陣も即座に鵜山の言葉を咀嚼し、途切れたシーンから迷うことなく芝居を再開する。流れるようなこうしたやりとりも、実力派の俳優陣が揃っているからこそであり、長い時間を共に“劇団”のような深い関係でつながったこのカンパニーだからこそと言えるだろう。稽古場でも本番さながらの熱と気迫のこもった演技合戦が繰り広げられており、どのような完成形を見せてくれるのか楽しみだ。

公演は10月18日(水)~11月19日(日)、新国立劇場 中劇場にて。

取材・文:黒豆直樹