KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『SHELL』が2023年11月11日(土)~26日(日)まで同劇場で上演される。脚本家の倉持裕と、演出家の杉原邦生という演劇シーンを牽引する二人の初タッグ作品として注目したい。
倉持は「(同劇場芸術監督である)長塚(圭史)さんから『貌』というテーマを言われて。『家族のカタチ』といった観念的なものを示そうかとも思ったが、直接的に『顔を変えて生きている人間』を主人公にすることにした。ただ、変身を便利に使ってしまうとヒーローものになってしまうから、それが枷になっている話にしようと思い......」などと本作の着想を語る。本を託した杉原に対しては「本当に楽しみ。邦生くんの演出はオシャレだから。彼の演出で、舞台の空間に余白がいっぱいある美しい作品を観てきたので、観客の想像に委ねるところも多い本作にも合う気がする」。
一方の杉原は「議論を重ねていく中で世界観がクリアになっていったが、『これはどうなるんだ?』という謎も増えていって。そういう不条理さも説明しすぎずに突っ走った方が、劇としては面白いのではないかということに落ち着いた。面白い本だなと思う反面、演出は難しそう」。倉持については「今回改めて新作を読むと、無駄がないことがすごいなと。つい演出家の“クセ”で、カットできそうな部分を探しながら読んでしまうが、必要な言葉だけが描き込まれている」と評した。
石井杏奈や秋田汐梨らのキャストは「いい意味で色がなく、透明感がある」(杉原)。若手音楽家の原口沙輔も「無理なく等身大の感覚で音楽を作っている気がする。同時に外に開いていく意識も見えて、こういう音楽家が舞台音楽をやったら面白い化学変化が起きるのでは」(杉原)と期待される。
観客に対して、倉持は「今回はプロットを組まずに、悩み苦しみながら書いた。その分、打ち合わせを重ねての改稿の時間は楽しかったし、どんどん良くなっていった。丁寧に作られた本という実感があり、ほかにはない芝居になるのでは」。杉原は「芸術は、普段出会えないものに出会える場。ちょっと不思議で不条理な世界観だが、今僕たちが抱えている社会の問題が見え隠れするし、共感できる部分もいっぱいあると思うので、楽しみに劇場に来てほしい」と語った。
京都公演は12月9日(土)、10日(日)。
取材・文:五月女菜穂