安野光雅 津和野町立安野光雅美術館提供 安野光雅 津和野町立安野光雅美術館提供

あべのハルカス美術館で2023年11月12日(日)まで開催中の「安野光雅展」。本展の企画者で、フリーキュレーターの林綾野さんによるオフィシャルレポートが届きました。

安野光雅展 チケット情報

1926年(大正15年)、島根県津和野町に生まれた安野光雅。画家になるのが少年の頃からの夢だった安野は23歳で上京し、美術教員のかたわら本の装丁などを手がけます。
デビューは遅く、42歳のとき。教え子の保護者が福音館書店の編集者で、「おもしろい美術教員がいる」とその才能を見出しました。そして生まれたデビュー作が『ふしぎなえ』です。

林綾野:安野先生が今までにない絵本をつくりたい、文字のない、絵を見る絵本をつくりたいとお考えになってできたのが『ふしぎなえ』です。エッシャーの世界観に影響を受けて、安野風不思議ワールドにアレンジしてできたのがこの作品(《ふしぎな絵》1968年)です。

林綾野:この絵に安野さんの魅力がいっぱい詰まっています。まず2冊の本を見てください。クイーンのトランプを見ると、本の厚みは同じなのに、奥を見ると高低差が出来ていますね。そして、トランプが切り取られて本のプールのコース台になっている。絵の中のはさみとテープを使ってこの楽しい世界観が出来上がっていますが、この不思議な世界は四角の線で囲まれた本の世界だけの空間なんです。

林綾野:こちらは初期三部作のひとつ、『ふしぎな さーかす』です。この絵(《ふしぎな さーかす》1971年)は、ゆがみ絵というだまし絵の一種です。絵のこちらから見ると...

林綾野:こどもたちが紙の絵本を実際に手に取ってめくりながら、いろんな角度で楽しめるように、という工夫をこらしてあるんです。

そして林さんからもう1冊、『蚤の市』をご紹介いただきます。

林綾野:『蚤の市』は、ある市場の様子を朝から夕方まで追ったものです。本当にありとあらゆる物が売られていまして、安野さんの本もあるんです。私、本当にこの本が好きで、安野光雅さんにどうやって描いたんですか?って聞いたことがあるんです。「左上から描き始めて、どんどんどんどん描き進めて、最後は右隅でピタッと終わるように描くんだ。これが職人技で醍醐味なんだ」っておっしゃっていました。全ページがそのように描かれているんですね。安野さんのそういう姿を思い浮かべながら、この作品を見ていただきたいです。

特別出品:『旅の絵本Ⅹ』からも原画2点を展示しています。