2075年、人間を守るために開発されたはずのAIが、ロサンゼルスで核爆発を引き起こした。人類とAIの戦いが激化する中、元特殊部隊のジョシュア(ジョン・デビッド・ワシントン)は、人類を滅亡させるAIを創り出した「クリエイター」の潜伏先を突き止め、暗殺に向かう。だがそこにいたのは、幼い少女の姿をした超進化型AI(マデリン・ユナ・ボイルズ)だった。ジョシュアはある理由から、暗殺対象であるはずのAIをアルフィーと名付け、守り抜くことを決意するが…。SF大作『ザ・クリエイター/創造者』が10月20日から全国公開される。公開に先駆けて来日したギャレス・エドワーズ監督に話を聞いた。
-今回はどういうところからアイデアを得て、映画化を思いついたのですか。
インスピレーションは、いろいろなところから得ましたが、一番初めは、イギリスで夜遅く仕事をしていた時に、テレビである映画のクリップを見たことです。それは侍と小さな子どもが出てくるもので、とても心に響いたので、あれは一体何だったのだろうと一生懸命調べたら『子連れ狼』だと分かりました。それで、いつかあの2人のキャラクターの力学や関係性を映画の中で描きたいと思いました。それが2000年のことです。SF的なことで言えば、聖なる三つの物があります。それはエイリアン(モンスター)、宇宙船、そしてロボットです。その内の二つは『GODZILLA ゴジラ』(14)と『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)でやったので、今回はロボットにしようと思いました。
-今回のテーマは、ジョシュアとアルフィーを通して、人間とAIとの関係について描くことだったと思いますが、果たしてかわいい子どもの姿をしたAIを殺せるのかというジレンマが象徴的に描かれていましたね。
それは、もし時間を逆行して子どもの頃のヒトラーをあやめることができたら、あなたはどうしますか? という結構有名なジレンマともつながります。実行したら、自分もヒトラーと同じように罪人になるのではないかということが難問となります。この映画には、それに近いものがあります。そうした奇妙なジレンマみたいなことを考えたり、友だちと話すのが好きなんです。
AIに関しては、今後われわれの社会に、そうした難問がたくさんやってきます。例えば、家の中や車で扱っているAIは果たして生きているのかということです。もしあなたが車を激しくぶつけてしまったとして、そこにAIが入っていたとしたら、それをデリート(消去)しますかというようなことがこれから起きてくるわけです。それで結局は人間とは? という問い掛けにたどり着くんですけど。今回は、それをテーマとして大きく掲げたわけではなくて、人間がいかに自分とは異なる人々を滅ぼそうとするのかというメタファーとして使ったんです。ただ、やっぱりAIがテーマの一つだから、作っていくうちに、そういう哲学的な問い掛けが当然出てきたし、非常に運がいいことに、今日的な問題として、そうしたことが毎日見出しで語られる時に公開することができました。
-『GODZILLA ゴジラ』はもちろん、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』でも香港のドニー・イェンを起用するなど、今回も含めて、監督はアジアへの意識がとても強いと思いますが、その理由は?
どうしてかは自分でも分からないんですけど、アジアには強い思い入れがあります。12歳の時に、家族旅行で香港とタイに行きました。12歳はいろいろなものがインプリントされたり、イメージが強く残る時期だと思います。だから、それが大きかったのかなと思います。その時に見たことが、この映画のあるシーンにもなっています。タイのチェンマイの葉巻工場では、働いている女性たちがノールックで(対象を見ずに)おしゃべりしながら作業している姿が印象的でした。大人になってから、あれがAIだったら面白いんじゃないか。AIがだんだんと目覚めてきて、「ここはどこだ」と混乱しているんだけれども、女性たちはノールックで作業しているから、気にもせずに普通に自分たちのゴシップか何かを話しているみたいなシーンはどうしても入れたいなと思いました。
アジアに引かれるのは、やっぱり欧米の文化とは全く違うと感じるし、未来世界にいるような気がするからなんです。だからスリリングだし、インスピレーションもすごく得ています。日本で撮影して、日本のものを使って映画を作りたいといつも思っているけど、何か「盗んで作っているんじゃないか」という罪悪感もちょっとあります。ただ、クリエイティビティ(想像力)というものは、動物を掛け合わせて進化してきたのと同じように、あれもこれも持ってきて何かを作り出すという行為なので、まあいいのかな、許されるのかなとは思いますが。
-この映画は、アメリカとアジアの対立の構図みたいなことが描かれていて、ベトナム戦争に対する意識や影響があったのではないかという気がしたのですが。
『キングコング 髑髏島の巨神』(17)を監督した友人のジョーダン・ボート・ロバーツが、「ベトナムに滞在してみないか」と誘ってくれたんです。その時、ロボット映画を作りたいと思っていたので、例えば、お寺に行く僧侶の姿を見ながら、「あれがロボットだったらどうだろうか」などと想像力を膨らませていました。
ベトナム戦争の映画となると、自分の中で大きいのは『地獄の黙示録』(79)とか『プラトーン』(86)『フルメタル・ジャケット』(87)なんですけど、あれは対象が人間ですよね。あれがもしロボットだったらというふうに考えました。それに、今までベトナム戦争を想定したSF映画は作られていないのではないかと思いました。
ベトナム戦争の想定は、例えば、ジェームズ・キャメロンが『アバター』(09)でも使っていますが、あれは舞台が宇宙ですよね。なので、舞台が地球上でというのはまだないなと。それで「これは他の監督が絶対にやりそうだ」と気付きました。もし先を越されたら嫉妬してしまう、レースではないけれど自分が先にやらなければみたいな気持ちがありました。なので、ベトナム戦争の影響は確かにあります。
-最後に、日本の観客に向けて一言お願いします。
日本の観客には、まず「ありがとうございます」と言いたいです。なぜなら、日本のポップカルチャーと映画、そしてデザインや美的感覚、こうしたものに本当に影響を受けているからです。特にデザインに関しては、世界で最も素晴らしいものだと思います。この映画を作るに当たって、本当にたくさんのものを日本からお借りしています。そうやって作られた作品です。ただ、いろいろなものを借りてはいますが、新鮮に感じられるような形で組み合わせたつもりなので、そういうところを見ていただけるとうれしいです。自分としては、この映画はアメリカやイギリスというよりも、日本の映画のような気がしています。だから、日本で公開されることは、この映画にとっては古巣に戻るようなものです。そんな映画ですので、ぜひご覧になってください。
(取材・文・写真/田中雄二)