つかこうへいの『熱海殺人事件』が紀伊國屋ホールで誕生してから40年経った2013年春。その記念公演で主役の木村伝兵衛に抜擢されたのが馬場徹だった。そして2014年春。紀伊國屋ホール創立50年を記念する公演で、馬場が再び伝兵衛を演じる。つかの意志を継ぐ演出の岡村俊一とともに、意気込みを聞いた。
紀伊國屋ホールで再び馬場徹さんと『熱海殺人事件』に挑む思いをお聞かせください。
岡村「つかさんは、上演する劇場の環境を利用して作劇することに大変長けた人でした。だから、紀伊國屋ホールで誕生した『熱海殺人事件』は、あの劇場における最高傑作だと僕は思っています。その意味でも今回は、つかさんが紀伊國屋用に作った“本物の熱海”をお見せするつもりです。そしてそれには、馬場徹が必要なんです。木村伝兵衛はあの膨大なセリフの中で本当の思いを1行か2行しか言っていないんですが、馬場は、それでも気高くしゃべり続け、言葉の奥にあるものを見せることができる数少ない役者ですから」
演出家のそんな期待を背負って、再び紀伊國屋ホールに立つ心境は?
馬場「紀伊國屋ホールは、前回の『熱海──』が初めてだったんですが、極限までエネルギーが出る感覚がありました。それはたぶん、つかさんのセリフの奥にあるものが壮大だからなんだと思います。自分がそれを見せられるかはわからないですが。でも、刑事の伝兵衛と犯人の大山金太郎がいる小さな取調室から、日本の問題や宇宙のことまで見えてくるように。活字じゃなく思いを伝えるんだというつかさんから教わったものを大事に、今回も紀伊國屋に立てたらなと思っています」
40年前に生まれた『熱海殺人事件』をはじめとするつか作品の魅力を、若い世代としてはどう捉えていますか?
馬場「役者としては、単純にこの莫大な言葉と向き合うだけでもかなり鍛えられると思っています。しかも、言葉がきれいなんです。たとえ差別的な言葉があっても、つかさんの真の思いを理解すれば、すべてきれいに聞こえてくる。だから、つかさんの伝えたかったことをきちんと受け継いでいかなければなと思ってます。といっても、決して堅苦しい芝居ではありません。ショーの要素も盛り込んで面白く見せるのもつか作品の魅力なので。つかさんを知らない世代にも楽しく観ていただいて、またここから僕たちが、新たな“つか伝説”を作りたいと思っています」
公演は2月15日(土)から3月4日(火)まで東京・紀伊國屋ホールにて。チケットの一般発売は1月19日(日)午前10時より。チケットぴあではインターネット先行先着プリセールを実施中、1月19日(日)午前9時30分まで受付。
取材・文:大内弓子