岐阜県東部の架空の町・梟(ふくろう)町を舞台にした本作で、岐阜ことば指導を担当するほか、鈴愛(永野芽郁)たちが通う高校の担任・山田先生役で出演もしている俳優の尾関伸次。田舎と東京を舞台にすることが多い朝ドラでは方言指導は必要不可欠だが、指導者の仕事ぶりはあまり知られてない。そこで、そのかわいさにも注目が集まっている方言指導の流れや、生徒としての出演者たちの様子などを聞いた。
-役者でもある尾関さんが岐阜ことばの指導をするに至った経緯は?
実は、岐阜県東濃地方を舞台にしたドラマが始まるということで、僕がその方面の土岐市出身ということもあり、勝田(夏子)プロデューサーに「出演したい」と話していたんです。最初は、ヒロインの永野さんに合わせて女性で探していますということだったんですが、東濃地方の方言ができる人がいないということで、勝田さんから「出演は分からないけど、ことば指導でどうですか?」という話を頂き、岐阜ロケの10月20日から指導をすることになりました。
-尾関さんは現在38歳ですが、2003年に上京されていますよね。標準語に慣れると、方言をうまく話せなくなる方もいますが、そのような苦労はありませんでしたか。
役者の仕事を始めるときに、事務所の社長に「すごくなまっているから直しなさい」と言われて、極力方言を使わないようにしてきたので、その15年後に、今度は「方言を出してください」と言われても…という思いはありましたが(笑)、そんなに大変ではなかったです。仕事で岐阜に帰る機会は多いし、そのときは自然と岐阜ことばが出るし、割とマザコンで、おかあさんと電話で話すので、よく使っています(笑)。
-現場での方言指導の流れを教えてください。
まずは台本で岐阜ことばが出てくるところを全てチェックして、演者さんにそのイントネーションの音源を渡すための吹き込み作業をします。それを演出部から俳優部に渡してもらいます。そして、月曜日のリハーサルの本読みで皆さんのイントネーションなどをチェックして、さらに撮影現場に立ち会って微調整をします。なので、鈴愛ちゃんのシーンが朝、晴(松雪泰子)さんのシーンが夜だったら、僕は1日中セットの中にいます。
-今回はキャラクターによって方言の強弱が違いますが、どのように工夫されていますか。
これは僕ではなく、北川(悦吏子)さんによる台本の時点で違っています。律(佐藤健)はとっぽい男の子がしゃべるような岐阜ことばではなく、中流階級の少し気取ったイメージなので、語尾にしか方言は出てきません。逆に鈴愛ちゃんは、リアクションから何から全て、僕の田舎の同級生みたいな濃い目のことばで書かれています。
-2人の習得ぶりはどうでしょうか。
素晴らしいです。律くんは完璧主義者なのか、細かい語尾のイントネーションやアクセントを気にして、そこは標準語でいいかなと思うようなところでも、「ここも方言の方がいいですか?」と相談しに来たりします。鈴愛ちゃんは1月の会見のときに自画自賛していたように、本当にすごいです。
-だとすると、永野さんはどうやって覚えているのでしょうか。
僕は撮影がないときも、前室などでは岐阜ことばでしゃべっているので、そこから吸収しつつ、普段の会話の中では、アクセントが間違っていても、とにかく出力しようとしています。びっくりしたのは、台本にはないけど、つなぎで必要なアドリブみたいなせりふに関してで、律くんは毎回相談に来るけど、鈴愛ちゃんは勝手に言っていることが合っていたりするんですよ。だからこそ、(律は)ちゃんと音源を聞いて完璧に表現してくれている、いい生徒だと思っていたんです。そういう意味では鈴愛ちゃんはすごいですよね。大物が現れたな…という感じです。
-永野さんは普段の会話にも岐阜ことばが出るとおっしゃっていましたが、佐藤さんはいかがですか。
「仕事以外は使いません」みたいなスタンスでいますけど、ぽろっと出ていることはありますよ。「よしよし」と思いますね(笑)。
-逆に、苦戦している人はいますか。
名古屋弁に近い部分もあるので、名古屋出身の宇太郎(滝藤賢一)さんは、微妙なアクセントの違いに苦労されています。あとは、字で見ると関西弁っぽいので、そっちのイントネーションに流されてしまう方もいます。
-「あまちゃん」の「じぇじぇじぇ」のように、今後、はやることを期待している方言はありますか。
北川さんがよく書かれている「やってまった(やってしまった)」もそうですけど、「ほやらぁ(でしょ)」は女の子が言うとかわいいので使ってほしいです。地元にいた頃はこういう言葉がかわいいと思ったことはなかったけど、鈴愛ちゃんや菜生(奈緒)ちゃんがアドリブで好んで使ってくれているということは、女の子にはなじみやすいのかも知れないですしね。
-尾関さんは数々の映画やドラマでも活躍されていますが、本作での経験が今後の役者人生に変化をもたらしそうですか。
同じ作品に1年間も関わることは初めてだし、その中で一流の役者陣から吸収した、役に対する考え方やアプローチの仕方は、今後必ず役に立つと思います。スタッフさんたちのご苦労も身に沁みて体験出来ていますし(笑)、一生の宝物になるとても貴重な時間と出会いを頂いていると思い感謝しています。
(取材・文/錦怜那)