小児がんを抱えながらも12年の生涯を明るく生きた森上翔華さんのエピソードを基に描いたヒューマンドラマ『神さま待って!お花が咲くから』が、2月2日から公開された。本作の松村克弥監督と、主人公を見守る小児科医の脇坂和美を演じた北原里英に話を聞いた。
-監督は、ここのところ『天心』(13)『ある町の高い煙突』(19)、それから今回の映画と、実話を基にしたものを撮っていますが、そうした映画を作る時の難しさや、気を付ける点などをお聞きしたいのですか。
なるべく実話に即して作ろうとは毎回思っていますが、実話通りにいかないところを脚色で埋めていくのが、毎回苦労するというか工夫しているところです。ただ、今回の作品は、脚本を書いてくれたプロデューサーの渡辺(健一)さんが、翔華ちゃんのご両親や校長先生や担任の先生に何度もお話を聞きに行って、それをすごく広げて、深くしてくれたので、今回は、本当に脚本の力が大きかったです。渡辺さんが書いてくれた世界を壊さずに、どう描こうかということをすごく考えました。
-北原さんは、一見クールに見えるお医者さんだけど、実は違って、最後に本音が出てくる。本来は患者を救う立場のお医者さんが逆に翔華ちゃんに救われるみたいな部分もありましたが、最初に脚本を最初に読んだ時の印象はどんな感じでしたか。
最初に脚本を読んだ時は、すごくいい話だなと思いました。もちろん泣きましたし、自分の役がすごく大事だと思ったので、この役を演じるんだと思ったら、とても緊張しました。映画の脚本ですけど、小説を読んだような重厚感というか、何てしっかりとした物語なんだと思って、これが映画になったらすごくすてきだろうなと思いました。
-実際に演じてみて、監督の演出も含めていかがでしたか。
監督は、それほど細かく演出をされるタイプの方ではなく、すごく任せていただいたなと思っています。実際に演じてみて、自分の中でも、この役をしっかり演じ切れたら、かなり成長につながるだろうなと思っていたので、悔いなく演じられたのはすごくよかったです。今できる精いっぱいのものは出せたかなと。この映画を撮った時に監督に褒めていただけたことがすごく心に残っていて、短い撮影期間だったんですけど、とても印象深い映画になりました。
-監督は、先ほど脚本を壊さないようにとおっしゃいましたけど、今回演出をする上で、ほかに何か気を付けたことや心掛けたことはありましたか。
『天心』や『ある町の高い煙突』では、ベテランの俳優さんたちと一緒にやっていて、こういう子どもさんたちが主役の映画というのは初めてだったので、どういうふうにやってこうかと思いました。今回はオーディションですてきな俳優さんや子役さんたちとも知り合えたので、クランクインをする前にみんなで集まって、いろいろと話し合ったりしました。僕は、俳優さんの最初のテンションを大切にしたいので、リハーサルはあまりやらないんですけど、今回は子役さんたちが相手で、彼らは経験も少ないので、そこは気を付けました。でも、あまり現場でいろいろと言っても仕方がないので、割と早めのテークでオッケーにして、本人が持っている子どもならではの生理や生き生きした素顔をつぶさないようにしました。
-翔華役の新倉聖菜さんはオーディションで選んだとのことですが。
何を基準にして選んだかというと、昔ベテランの助監督さんから「オーディションで監督が選ぶコツは、お客さんが彼らと2時間付き合って見ていたいと思うかどうか。それを考えた方がいいよ」と言われました。聖菜ちゃんなら、僕もお客さんも2時間見ていられるタイプだと思いました。そうやって選ばせてもらいました。
-実際に演出してみていかがでしたか。
すごく勘がいい子でよかったです。それに変な言い方ですけど、すごくかわいくてきれいなんですよ。だから見ていたいなと。それは結構大きかったです。笑顔も、ちょっと悩んでいる顔も、どれもかわいらしいんです。 そこにまたいとしさが湧くじゃないですか。この子がこの後亡くなっちゃうんだなって。僕はオーディションでそれを感じました。彼女も本当に頑張ってくれました。あとは、周りのいじめっ子役の子たちもみんな良かったです。だから北原さんと上村(佳里奈)さんの最後のシーンが僕は好きなんです。あのシーンも見どころなので、ぜひ見ていただきたいです。
-北原さんは、新倉さんとの共演はいかがでしたか。
すごく真っすぐな子で、翔華ちゃんがここにいると思いました。だから目の前にいるこの子が亡くなったら本当に悲しいだろうなと思いました。自分は医者の役だけど、この子を助けられないんだと思うと、すごく切なかったです。聖菜ちゃんが翔華ちゃんを演じたことで、お芝居の面でも助けられたところがあります。何かとてもリアルで、演じているのではなく、そこに本当の翔華ちゃんがいるような感じがして。
私は、お芝居ですぐに泣けるタイプではないので、その気持ちを作るためには、一度別の悲しいことを想像したりします。過去に泣いたことがある経験を思い出して、ここまで涙を持ってきて、お芝居をしながら涙を流すみたいな工程を踏むことが多かったんですけど、今回は目の前にいるこの子を救えないんだという思いがして、最初から持ってこられました。
-監督が、この映画に込めた思いとは。
プロデューサーさんが言っていた「9割笑い、1割感動」というのをなるべく大切にしようと思いました。うまい子役が出てきて泣かすというのではなく、翔華ちゃんや友達の女の子たちが持っている、いとおしさや切なさ、悲しさを出すことに気を付けました。泣かせるのではなくて、笑わせたりしながら切ない感じを出すみたいな作品だったと思うので。
-聖華ちゃんが亡くなった後に、彼女がまいた種が周囲の人たちに影響を与えたところに、彼女が生きた証しみたいなものが出ていたと思いますが。
その通りです。だからタイトルにもお花があるんです。シンボリックな話として、翔華ちゃんのお父さんから「翔華は飛んできた花。もしかしたら、本当にこの世に降りてきた天使だったかもしれない。ちょっと間違えて生まれてきてしまった天使だったのかもしれません」と聞いたことがあって、そういう思いは大切にしたつもりです。
-最後に、観客に向けて、見どころも含めて一言ずつお願いします。
北原 この映画は、明日からしっかり生きようというパワーをくれる映画だと思います。見た方の生きるパワーの源になったらいいなと思います。まずは映画館でいろんな方に見ていただくのが目標ですけど、ゆくゆくは小学校の授業などで体育館に集まってみんなで見たりすることもできる映画だと思います。それから「夏休みに地元の市民会館で特別上映するから見に行こう」みたいな、親子のコミュニケーションにもつながるような映画になっていったらいいなと思います。
松村 映画館で上映して終わるというのではなく、今北原さんが言ったように、地域上映みたいな形で広げていきたいと思います。こういうテーマだと、重く感じて見るのをためらう人もいるかもしれませんが、全くそんなことはなくて、みんなが生き生きと明るく演じてくれたので、ぜひ見ていただいて、爽やかな感動を味わっていただきたいと思います。この映画は、翔華ちゃんが周りを笑わせて勇気づけたことを大切に描いたつもりなので、この映画を見て、笑って元気づいていただけたら、僕としては最高にうれしいです。
(取材・文・写真/田中雄二)