2011年に史上最年少で第7回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを受賞。近年ではNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」やドラマ「パリピ孔明」、「義母と娘のブルース」シリーズなど数々の映画やドラマに出演するほか、「The Covers」(NHK BS)のMCを務めるなどマルチに活躍する上白石萌歌。3月8日から上演されるPARCO PRODUCE 2024「リア王」では、リア王に勘当されるも、誠実なフランス王のきさきとなる三女・コーディリアを演じる。上白石に本作への意気込みや演じる役柄について、活動の原動力などを聞いた。
-本作は、上白石さんにとって3年ぶりの舞台、そして初めてのシェークスピア作品となります。オファーを受けたときの率直な感想を教えてください。
幼い頃に地元でミュージカルを習っていたこともあって、私はとにかく舞台が大好きで、その頃に舞台の上で感じた感動が今の表現の原点になっているので、今回、3年ぶりに舞台に出演できることがすごくうれしいです。大学では芸術学を専攻し、演劇学を学ぶ中で、もちろんシェークスピアは通ってきた道なので、シェークスピアの4大悲劇の中でも切実な思いが詰まっているこの作品に出演できることはとてもありがたいことですし、今からすごく楽しみです。
-ミュージカルを習っていたのは、いつ頃のことなんですか。
鹿児島にいた頃です。姉(上白石萌音)と2人で通っていたのですが、原作があるものだったり、オリジナルで作ったものだったり、たくさんの作品を経験させてもらいました。初めて「表現」に触れたのは、そこでの体験でした。私は今は映像作品にもたくさん出させていただいていますが、舞台は原点であり、「戻ってきた」という感じがあります。
-今回、上白石さんが演じるコーディリアという役について、今現在はどのような人物だと考えていますか。
誰よりも実直で、誠実で、うそがつけない人で、一見、優等生のようにも見えるけれど、意思を頑なに曲げない強さを持っている人だと思います。お父さんの前で愛を語るシーンでは、きっと周りに合わせてたくさん愛を述べることもできたのでしょうが、自分の正義感や素直な心がそうさせなかった。すごく意志の強い人だと思います。
-そのコーディリア像は上白石さんのイメージとかぶるところがあると感じましたが、ご自身としてはいかがですか。共感できるところや似ているところはありますか。
私も、何か物事を始めるときに、決めたことを曲げるタイプではないので、そうしたところは似ているのかなとは思います。なるべく柔軟にいたいとは思っているのですが(笑)。
-では、今、舞台のために準備していることはありますか。
第1に健康、体調管理が大事だと思うので、通販で免疫を高めてくれるという飲み物を買いだめしました(笑)。今からなら本番に間に合うかなと思って。本番中はもちろんですが、稽古中にも体調を崩したくないので体調管理のために飲みたいと思っています。それから、普段から趣味で水泳をしていますが、舞台には体力も必要なので、なるべく体を動かそうとも思っています。
-上白石さんが稽古場で必ずしていることはありますか。
私はもともと人見知りなのですが、年々、人とコミュニケーションを取ることが好きになっているので、なるべく皆さんとお話をしたいと思っています。それがお芝居にも生かされると思いますし、共演者の方たちとの関係性ができていくと、お芝居もすごくやりやすいので。私がカンパニーで一番年下ということも多かったので、「全部教えてください」という気持ちで皆さんに話しかけると、皆さん素晴らしい方々なので快く意見をくださるんですよ。今回もそうしたいなと思います。
-ところで、本作は家族が一つのキーワードになっています。上白石さんもお姉さんがいますが、そうした「家族」という視点からこの作品を読んだとき、どんなことを感じましたか。
この物語の3姉妹は、時には敵対することもあるので、そういうシーンを見ると同じ姉妹と思えないところはあります。ただ、姉妹間の関係性としては共感できるところもあって。同じ母親から生まれてもこんなにも性格が違うんだとか、こんなにも選択が違うんだということは私自身も経験して、すごく分かります。それぞれの選択によって姉妹の生き方が変わっていくことが描かれているので、そこは共感できるところでした。とはいえ、今回はお父さんとの話がメーンです。コーディリアは愛情を述べられなかったけれど、本心ではお父さんのことを1番理解していて、愛情を持っているからこその行動もたくさん描かれています。家族の在り方は、100組の家族がいたら100通りあると思いますが、私なりの家族像を照らし合わせたり、家族の愛ってなんなんだろうと考えながら読んでいます。
-上白石さんにとって家族はどんな存在ですか。
明日、世界が終わるとしたら一緒にいたい存在です。
-では、先ほど、コーディリアは意志を曲げない強さを持っていると分析されていましたが、上白石さんにとっての絶対に曲げられない信念は?
「好き」という気持ちは曲げられないかもしれません。私が凹むのも表現の中だし、でも救ってもらえるのも表現やエンターテインメント。幼い頃から歌ったり、お芝居をしたり、何かを表現することが好きだという気持ちは一つも変わっていないのだと思います。私にとって、好きという気持ちが一番大切な原動力だと思うので、それは曲げずにいたいと思います。
-そうすると、これから先も「表現をし続けたい」というのが一番の目標ですか。
それしかできないというのもありますが。ただ、私はあまり形にはこだわりがないんですよ。例えば、この間も自分が撮った写真を展示する機会があったのですが、それも表現の1つですし、歌うことも楽しい。今、好きなものや自分がやり続けたいことを探してそれを形にできている状況ではあるので、俳優に縛られずに、クリエーティブなことをずっとやっていたいという気持ちはあります。
-表現したい欲求が尽きることはないんですね。
今まではないですね。むしろ、大人になるにつれてどんどん増している気がします。すてきなお友達と出会って、そのお友達が夢中になっていることがあれば一緒にやりたい。人との間に生まれる化学反応がすごく好きなので、好きな人と一緒に表現することもどんどんやっていきたいと思います。
-最後に、公演を楽しみにしている読者にメッセージを。
演じている私たちがエネルギーを放出し、同じくらいお客さまからエネルギーをいただく。エネルギーの渡し合いの場所である舞台が私は大好きです。この作品は、普段、あまり演劇を見に行かない方や敷居が高いのかなと感じている方にも、ぜひ見に来ていただきたい作品です。きっと演出家のショーン・ホームズさんの“魔法”でとても見やすい、現代にも通じるテーマが感じられる作品になると思います。ぜひこの機会に劇場に足を運んでいただけるとうれしいです。
(取材・文:嶋田真己/写真:小宮山あきの)
PARCO PRODUCE 2024「リア王」は、3月8日~31日に都内・東京芸術劇場 プレイハウスほか、新潟、愛知、大阪、福岡、長野で上演。