『ARGYLLE アーガイル』(3月1日公開)
謎のスパイ組織の正体に迫るすご腕エージェントの活躍を描いたベストセラー小説「アーガイル」シリーズの作者エリー・コンウェイ(ブライス・ダラス・ハワード)。新作の結末に行き詰まった彼女は、愛猫のアルフィーを連れて帰省することに。ところが列車で移動中に謎の男たちから命を狙われ、エイダン(サム・ロックウェル)と名乗るスパイに助けられる。
やがて、エリーの小説が偶然にも現実のスパイ組織の行動を言い当てていたことが判明。自身が創造したスタイリッシュなアーガイル(ヘンリー・カビル)が活躍する“空想のスパイの世界”と、風采の上がらぬエイダンが働く“現実のスパイの世界”がエリーの中で交錯していく。
『キック・アス』(10)でスーパーヒーロー物に、「キングスマン」シリーズでスパイアクション物に新機軸を打ち出したマシュー・ボーン監督が描く痛快スパイアクション。通常のスパイ映画へのオマージュをちりばめながら、逆にスパイ映画というジャンルに新たに挑戦している節もうかがえる。
脚本はジェイソン・フックス。共演にジョン・シナ、サミュエル・L・ジャクソン、ブライアン・クランストン、キャサリン・オハラ、アリアナ・デボースほか。
今回も、ハイスピードの過激なアクション、ユーモアのあるサプライズだらけのストーリー、凝った色合いに彩られたしゃれた映像は健在。特にアクションシーンは、剣戟(けんげき)映画の華麗な殺陣やミュージカルの舞踏を思わせるものがある。
そして、エリーとエイダンの正体をめぐる二転三転するストーリーが目まぐるしく描かれる中、何度も流れるザ・ビートルズの“最後の新曲”「ナウ・アンド・ゼン」が、2人の道行にぴたりとはまるところに、ボーン監督のセンスの良さがうかがえる。
ダラス・ハワードの変身ぶりや、空想のスパイであるアーガイル(カビル)と現実のスパイであるエイダン(ロックウェル)との対象の妙、愛猫のアルフィーの存在も面白い。
『コヴェナント 約束の救出』(2月23日公開)
2018年、アフガニスタン。タリバンの武器や爆弾の隠し場所を探す部隊を率いる米軍曹長ジョン・キンリー(ジェイク・ギレンホール)は、不承不承アフガン人通訳のアーメッド(ダール・サリム)を雇う。
ところがアーメッドは優秀で、部隊の危機を何度も救う。その後、キンリーの部隊はタリバンの爆発物製造工場を突き止めるが、大量の兵を送り込まれ、キンリーとアーメッド以外は全滅してしまう。キンリーも瀕死(ひんし)の重傷を負うが、アーメッドが必死の思いで100キロ先の米軍基地まで運び、キンリーは本国への帰還を果たす。
だが、自分を助けたためにアーメッドがタリバンから狙われ、身を隠していることを知ったキンリーは、彼を救うため再びアフガニスタンへと向かう。
ガイ・リッチー監督が、アフガニスタン問題とアフガン人通訳についてのドキュメンタリーに着想を得て撮り上げた社会派ドラマ。
この映画がユニークなのは、極限状態を共に生き抜いた“戦友”とも呼ぶべき特別な関係から生じる、日本的とも思える義理や人情、恩義に報いることを描いているところ。エンディングにも、コヴェナント=契約、ボンド=絆、プレッジ=誓い、コミットメント=約束という字幕が出る。
そんなキンリ―とアーメッドの関係を見ていると、カンボジア内戦を舞台に、アメリカ人ジャーナリストとカンボジア人通訳の友情を描いた『キリング・フィールド』(84)を思い出すが、どちらかといえば、西部劇によく見られる、白人と白人に味方するインディアンの通訳との関係に似ている気がする。
例えば、西部劇的にいえば、この映画の場合はタリバンが憎きインディアンの役割で、悪いのは彼らの方なのだから、自分たちの身を守るためなら彼らをいくら撃ち殺しても構わないということになる。そしてインディアン=タリバンの追手から逃れる逃亡劇が繰り広げられ、最後は騎兵隊=米軍が現れるという仕組み。
リッチー監督は、実はこうしたアメリカの短絡的な思考を揶揄(やゆ)したかったのかもしれない。だから、この映画の場合は、美談や感動的な話ではなく、むしろ苦い話としての印象の方が強くなるのだ。
ところで、この映画のオープニングにアメリカの「名前のない馬」が流れる。ベトナム戦争下の72年のヒット曲だ。アメリカはイギリスで結成された3人組のバンドだが、3人とも父親はロンドンに駐留する米国軍人だった。ガイ・リッチー監督もイギリス人。だからアメリカ合衆国から見れば”異邦人”である彼らが”砂漠”を歌ったこの曲を、映画のテーマに沿ったものとして象徴的に使ったのだろう。
(田中雄二)