昨年の公演がはけてからの365日。そんな1年間の“喜怒哀楽のドキュメント”、それが鶴瓶噺だ。落語と本格的に向き合う以前から磨きあげ続けてきたそのオリジナルな話芸は、昨年20周年を迎えた。「本当にあったことが一番おもしろい」と信じ、舞台でそれを証明してきた男に話を訊いた。
刷り上がったばかりだという「鶴瓶噺2014」のチラシには、笑福亭鶴瓶の好きなものがずらりと並んでいた。「ハワイ」から「ポテトサラダ」に「性善説」まで。雑多である。では、鶴瓶噺の登場人物たちに共通項はあるのだろうか。「もしあるとすれば、“意図がない人たち”なのかもしれません。たとえばタクシー。今度の映画でしゃべりながら鯛をさばくシーンがあるんですけど、そんなの知らないじゃないですか。だから、『運転手さん、すみません。電話します』言うてから、知り合いの料理人に相談してみたんです。『もしもし? 今度の映画のために教えてほしいんやけど、鯛のさばき方って知ってる?』と電話で聞いたら、運転手さんが『私、知りません』言うて(笑)。あなたに聞いてませんと。電話するってちゃんと言うたでしょと。でも、その運転手さんがおもろいのは、“鶴瓶を笑わせてやろう”などという、変な意図がないところやと思うんです」。
鶴瓶噺が魅力的なのは、舞台上で登場人物たちが生き直すこと。2時間の舞台は終始ひとり語りなのに、彼らと鶴瓶のやりとりが、まるで目の前で繰り広げられているかのように再現される。「この間、嵐の櫻井と“家族に乾杯”のロケで長野に行ったんです。彼の旅のテーマは“もう一度自分を見つめ直す”でした。あれだけの人気者やから、どこに行っても人が集まってくる。でも、別々になってからの櫻井は、山奥でひとりになったんです。誰もいない。ふとまわりを見ると煙があがっている大きな家があった。ピンポーンと呼び鈴を押すのは、まるで訪問販売のようで気が引ける。そこにその家の主の女性が、たまたま現れたんです。櫻井が『家族に乾杯で来ました』言うたら、その女性が突然怒りだしてね。『あの番組はぶっつけ本番じゃないの? 下調べなんてしているの?』と。その女性、櫻井のことをまったく知らなくてスタッフと間違えてしまって。しょうがないから『紅白で司会をしていた嵐というグループの櫻井です』言うて。どんな自分を見つめ直す旅やねんと(笑)。でも、リアルでしょ?」
鶴瓶は流行を否定しない。流行っているものは絶対に間違っていないとさえ言う。けれど、自分は自分のペースで流行りたいと願い続けてきたと語ったあとで「人間の持っている失礼じゃない常識をちゃんと相手にぶつければ、おもろいことが絶対におきるんです」と笑った。なるほど。だからチラシにも「性善説」とあったのか。信じる男のリアルな人間讃歌=「鶴瓶噺2014」は、日々の出来事や喜怒哀楽がごちゃ混ぜにされ、だからこそ鶴瓶色の「おもろいこと」に満ちている。
「鶴瓶噺2014」は4月22日(火)から26日(土)まで東京・世田谷パブリックシアターほか、愛知、福岡、大阪、福島、東京で公演。