2012年は辰年です。龍は十二支の中で唯一の架空の動物であり、東洋では龍神として神の化身に、西洋ではドラゴンとして魔物になっています。また相場の世界では“辰巳天井(たつみてんじょう)”と言って、空へと昇る龍にちなんで、辰年は上昇相場になると言われています。もっとも12年前はITバブル崩壊で相場は大幅に下落、更に24年前はバブル真っ盛りと、必ずしも格言通りになってはいませんが。そんな縁起物の龍なだけに、漫画では龍をいろんな形で取り入れた作品が数多く描かれています。その中からお勧めの3作品を紹介しましょう。

まず小学館の「ビッグコミックオリジナル」で連載されていた『龍-RON-』(村上もとか)です。村上もとか作品では、昨年のドラマが大ヒットした『JIN-仁-』を思い出すかもしれません。主人公の名前をタイトルにしていたり、史実をベースにストーリー展開をさせたところなどは似ていますが、連載開始はこちらが少し先です。

剣道が得意な主人公の押小路龍は、京都の武道専門学校に入学し、同級生達と切磋琢磨する毎日を過ごしていきます。この辺りでは、ほのかに恋愛模様もあったりして、剣道青春漫画の様相を呈しています。小学館の「週刊少年サンデー」で連載されていた『六三四の剣』もあり、このまま剣道漫画で続いていくのかなと思ったのですが、時代背景が第二次世界大戦に突入すると、舞台を中国大陸に移して、一転ワールドワイドな展開になります。大風呂敷を広げた漫画では、往々にしてそれを畳むのに失敗することもあるのですが、この『龍-RON-』は比較的きれいに畳んであります。最後は押小路龍の行く末などをちょっとボカした感じにしているところも、読者の余韻を誘う形に仕上がっています。

NHKにて市川染五郎の主演でドラマ化もされたのですが、こちらはそれほど話題にならずに終わってしまいました。市川染五郎は元気はつらつで、押小路龍のイメージに合っていましたし、龍の叔父、押小路卓磨を演じた大竹まことは漫画から飛び出してきたようにピッタリだったのですけどね。

 

次は講談社の「週刊モーニング」で連載されていた『ドラゴン桜』(三田紀房)です。題名の元になっているのは、破産寸前の私立龍山高校に植樹された桜の木から来ています。ただし合格電報におなじみの文言“サクラサク”や、学校を建て直すために奔走する主人公の弁護士、桜木建二の名前もかかっているようです。

学校の建て直しとして超進学校を目指すのですが、そこに織り込まれた東京大学を目指す勉強方法が、漫画の枠を超えて話題になりました。作者にとっては初のヒット作品になり、その後の『マネーの拳』や『エンゼルバンク-ドラゴン桜外伝-』などのビジネス関連の作品へとつながっていきます。

高校3年生の東京大学合格をストーリーとしているために、漫画内で進む時間は1年足らず。落ちこぼれだった生徒が東京大学に合格する結果は漫画ならではの予定調和と言えますが、そこに至るまでの展開はスポ根漫画に似たところがあります。しかしながらスポーツ漫画を読んでスポーツを志すように、この漫画を真似て東京大学を目指そうとするにはちょっと無理があるかなぁと。

 最後は竹書房の「別冊近代麻雀」で連載されていた『麻雀飛翔伝 哭きの竜』(能條純一)です。タイトルの“竜”は主人公である雀ゴロ(麻雀で生計を立てる人間)の名前から来ています。ただし本名かどうかも含めて、竜の人となりは明確になっていません。それでも竜の持つ強運を巡って、ヤクザ達が麻雀に抗争にと明け暮れるストーリーが展開されていました。

麻雀をしない人には分かりにくいかもしれませんが、「チー」「ポン」「カン」と鳴き(哭き)まくって、絶妙な和了(あが)りを見せる流れに魅了された読者も少なくなく、「あンた、背中が煤(すす)けてるぜ」などの名セリフや、タバコを手にしたまま俯き加減で麻雀卓に向かう姿勢は、誰しもマネしたくなるものがありました。それまでにも麻雀漫画はたくさん描かれていましたが、それらを一変させるほどの影響力があった作品と言えます。ラストシーンで竜は銃撃され生死は不明となっていましたが、実は生きていたようで『麻雀飛翔伝 哭きの竜 外伝』として後日談が連載されました。

人気漫画の例に漏れず、アニメや実写ドラマにもなったのですが、漫画ほどにはヒットせずに終わってしまいました。それでも麻雀漫画の代表作に、この作品をあげる人は多いのではないでしょうか。以前は竹書房の漫画雑誌ばかりだった麻雀漫画も、青年誌や少年誌を中心に数多く描かれるようになったのも、こうしたヒット作品があればだと思います。

毎年の大発会は、ご祝儀相場もあって上げ調子で始まります。2012年の大発会も好調に始まりました。引き続き順調に上がって欲しいのですが、アメリカ、ロシア、中国で政権選挙があるなど先行きは不透明感が強く、円高による製造業の空洞化も進行しそうです。そんな状況でも力強く生きて生けるように、「龍」漫画を読んで、元気を貰ってはいかがでしょうか。 

あがた・せい 約10年の証券会社勤務を経て、フリーライターへ転身。金融・投資関連からエンタメ・サブカルチャーと様々に活動している。漫画は少年誌、青年誌を中心に幅広く読む中で、4コマ誌に大きく興味あり。大作や名作のみならず、機会があれば迷作・珍作も紹介していきたい。