ながら聞きイヤホンの認知を広げたソニーの「LinkBuds」(上)と3月にBOSEが発売した「Ultra Open Earbuds」

「ながら聞きイヤホン※」が広がり始めた。きっかけは2022年にソニーが発売した「LinkBuds」。筐体に穴を開けて、自然に外音が聞こえるようにしたユニークな形状で注目を集めた。耳をふさがないため、音楽などを聞きながら外部の音も自然に入ってくるのが大きな特徴だ。現在は、耳に引っ掛けて使うクリップタイプの製品がほとんどだが、外音が自然に聞こえる、という機能は同じ。特に完全ワイヤレスの製品が注目されており、この1年で販売台数構成比が急拡大している。全国2300店舗の家電量販店やオンラインショップの実売データを集計する、BCNランキングで明らかになった。

イヤホン市場で、完全ワイヤレスイヤホンは今、最もホットなカテゴリーだ。そのため参入メーカーは200社に迫る勢い。レッドオーシャン化も進んでいる。以前は破竹の勢いで販売を伸ばしていたが、一転頭打ち。台数前年比は伸びても数%程度。前年を割れる月も散見されるような状況が、昨年夏あたりまで続いていた。足踏みしていた市場を動かしたのは、アップルのUSB-C充電対応の第2世代AirPods ProとソニーのWF-1000XM5。いずれも9月の発売だ。ワイヤレスイヤホンは2桁成長の勢いを取り戻した。これをさらに後押ししているのが、ながら聞きイヤホン。特に秋以降参入企業が目立ち始め、新製品も続々と登場している。

まず10月に参入したのがハーマンインターナショナル。JBLブランドの「Soundgear Sense」を発売した。続いて11月にAnkerが「Soundcore AeroFit/AeroFit Pro」の2モデルで参入。12月にはソフトバンクがGLIDiCブランドの「HF6000」で加わった。この3月にはファーウェイが「FreeClip」、BOSEも「Ultra Open Earbuds」をひっさげて参入。にわかに市場はにぎやかになってきた。完全ワイヤレスイヤホンのうち、ながら聞きモデルのメーカー別販売台数シェアは、この3月、BOSEが31.5%でトップ。発売直後ながら一気に首位の座についた。続く2位は、古参ともいえるambie。25.9%と安定的な強さを維持している。次いでJVCケンウッドが13.0%で3位につけた。以下、4位Anker(6.5%)、5位ソフトバンク(6.3%)、6位ハーマンインターナショナル(6.0%)と僅差で並び、7位がソニーで2.6%だった。

消費者にとって、あまりに種類が増えすぎて、ある意味「おなか一杯」ともいえる状況になっていた完全ワイヤレスイヤホン。ここに「味変」効果をもたらし市場に新風を吹き込んでいるのが、ながら聞きイヤホンだ。マイクを使って外音を取り込むイヤホンは多いが、どうしても電子的な音になりやすい。その点、物理的に外音が聞こえる構造のながら聞きイヤホンなら聞き疲れしにくい。使用時間が長くなりがちなユーザーにはぴったりだ。昨年3月の時点で、ながら聞きイヤホンの販売台数構成比は2.1%に過ぎなかった。しかし、この3月では8.5%と1割に手が届くところまで拡大している。今後、まだまだ増えていきそうだ。(BCN・道越一郎)

※物理的に耳をふさがないタイプのイヤホン。このうち本稿では、完全ワイヤレスタイプに焦点を絞った。クリップ型・クリップ(インナーイヤー)型の完全ワイヤレスイヤホンとソニーの「LinkBuds」が対象。同社の「LinkBuds S」についてはマイクで外音を取り込むカナル型イヤホンであるため集計から除外した。