店内には昭和プロレスファンが泣いて喜ぶ懐かしのビデオが並ぶ。
お客さんの一番人気は、「10.9武藤敬司VS高田延彦」戦だとか。
これらの貴重なプロレスビデオは、自身のコレクションと、レンタルビデオ店時代の宝だった。
「遠方から足を運んでくるお客さんもいて、ありがたいです。気軽に仲間と語り合ってほしい」といいながらも、「オープン当初は、誰でも入れる店よりは、いかに入りにくいかというコアな店を目指して作ったんですけどね」と笑う。
そんな横井店長にプロレスを愛するきっかけを聞いてみると、意外な返答だった。
「今はおしゃべりですけど、子どものころは背が高いだけの無口な少年で、いじめられっ子だったんですよ。猪木さんみたいに『なんだ、コノヤロー!』って言ってみたくて、憧れでした。僕のヒーローです」としんみりと振り返る。
「テレビでおばあちゃんがプロレスを見ていたのがきっかけ。戦後にテレビが普及し始めて、おばあちゃんは力道山に釘付けになっていたそう。
兄弟を戦争でなくしているから、当時は力道山がアメリカ人をやっつけて仇(かたき)を取ってくれているような思いで応援していたみたいです」
プロレスには、時代背景や人それぞれの思いが込められていると改めて思う。「プロレスは喜怒哀楽が含まれる、人生の縮図」と横井店長。
「プロレスは相手の技を受け止める、信頼関係がないとできないんですよ。受け身は思いやり。
昔は馳浩(はせひろし)さんと対戦したいプロレスラーが多かったそうです。馳さんは、自分の必殺技を全部やらせてくれて受け身をとってくれるから、自分が強く見えるんですって。だから、技をかけている方だけでなく、受け身の方も見てくださいね」
横井店長からプロレスの魅力を聞いた後で、ビデオ放映されている試合や店内を見渡すと、男のロマンに溢れた店なのだと、また違う印象が芽生えてきた。
そんな話を聞き、せっかくなので横井店長にプロレス技をかけてもらうことに。軽めの「コブラツイスト」だ。
「いたたた!」と騒ぐ筆者。しっかり受け身の姿勢が取れず、抵抗しようとする筆者は人生、まだまだのようだ。