“江戸の歌舞伎小屋の熱を再現したい”――。1994年、十八世中村勘三郎(当時=中村勘九郎)と演出家・串田和美がタッグを組み、若者の街・渋谷に出現させた「コクーン歌舞伎」。それまでの歌舞伎の常識や概念を打ち破った新しい演出で人気を博し、今年で20周年を迎える。第十四弾となる今回は、河竹黙阿弥作の『三人吉三』を中村勘九郎、中村七之助、尾上松也の顔合わせで上演する。 コクーンでは、2001年と2007年に勘三郎らが斬新な演出で上演、大評判をとった人気演目だ。三度目となる今回、どのような思いで挑戦するのか、3人に意気込みを訊いた。
演出を手掛ける串田から「歌舞伎の音は使わない方向でやる」と聞いた勘九郎はこう話す。「この前の『天日坊』(第十三弾・コクーン歌舞伎)では長台詞のところにギターのソロが入ってきて、そのときは何とか音に合わせることができましたが、今回はどうなるか…ですね。歌舞伎俳優というのはメロディの中に魂を入れる作業をしています。けれど、歌舞伎の下座音楽を使わない(「月も朧に白魚の…」の名台詞で有名な)“大川端”の場面をどうやるんだっていう、ワクワク感もありますが未知のものと闘う感じですね」。兄・勘九郎の言葉を受けて七之助も「ほんとに。やっぱり黙阿弥の言葉がきちっとメロディになっているので、そのまま台詞を言うとどうしても染み付いたものが出てしまうんです。言葉を変えればできるかもしれませんけど…難しいですね」と語る。
流麗な七五調の台詞が黙阿弥作品のひとつの特徴だけに、音ではなく言葉にすることでどこまで黙阿弥の世界観が伝わるのか。演じる側にとってハードルが高い作業になりそうだ。勘九郎は「だから今まで観た事のない“大川端”になると思うし、過去二回の『三人吉三』とも全く違う印象になると思います」と力を込める。コクーン歌舞伎初参加の松也は「たぶん、黙阿弥らしい台詞と歌舞伎では使われていない音をどう融合させるかでしょうね」と話し、「本当にどうなるかわからないですけど、新しく何かしなきゃいけないとか、前回どうだったとかは意識せずに、自分たちが出来ることをやって楽しんでいただける作品にしたいなと思います」と締めた。
配役は、元僧侶の和尚吉三を勘九郎、女装の振袖姿のお嬢吉三を七之助、元旗本の御曹司で浪人のお坊吉三を松也が演じる。また、歌舞伎俳優以外からも笹野高史、大森博史、真那胡敬二らに加え、フランスを拠点に活躍する笈田ヨシの出演も決定した。若い歌舞伎俳優たちと演出の串田が創り上げる“新しいコクーン歌舞伎”に期待したい。
なお、インタビューの全文はチケットぴあインタビューページに掲載。
コクーン歌舞伎第十四弾『三人吉三』は6月6日(金)から28日(土)まで、東京・シアターコクーンにて上演。チケットの一般発売は4月20日(日)午前10時より。