『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』(7月5日公開)
1940年10月。イタリア海軍の潜水艦コマンダンテ・カッペリーニ号は、イギリス軍への物資供給を断つため、地中海からジブラルタル海峡を抜けて大西洋へ向かう途上で遭遇した船籍不明の船を撃沈する。それは中立国ベルギー船籍の貨物船カバロ号だったが、イギリス軍の物資を積んでいた。
サルバトーレ・トーダロ艦長(ピエルフランチェスコ・ファビーノ)はカバロ号の乗組員たちを救助して最寄りの港まで運ぶことを決めるが、それは、潜航せずに無防備のままイギリス軍の支配海域を航行するということで、自らと部下たちを危険にさらす行為だった。
この映画は、第2次世界大戦中の実話を基に、戦時下でも失われることがなかった海の男たちの誇りと絆を描いている。監督はエドアルド・デ・アンジェリス。イタリア海軍全面協力のもと、実物大の潜水艦を再現した。
オープニングに、2013年にウクライナ人艦長に救われたロシア人遭難者の「海では誰もが神から救いの腕1本の距離にいる」という字幕スーパーが入る。これは「われわれは敵船は情け容赦なく沈めるが、人間は助けよう」というコマンダンテ・カッペリーニ号のトーダロ艦長の言葉とも通じるものがあり、騎士道精神を描いたこの映画と現代とのつながりを示すことになる。
潜水艦を舞台にした映画は数多くあるが、第2次大戦下、潜水艦内で極限状態にいる男たちを描いた点で、ウォルフガング・ペーターゼン監督のドイツ映画『U・ボート』(81)とよく似ていると感じた。ただ、迫力という点では、この映画も決して負けてはいない。
この映画の主役ともいうべき潜水艦コマンダンテ・カッペリーニ号は、後にドイツに移ってU・ボートとなり、最後は日本で伊号潜水艦となったが、日本の敗戦後、米軍によって海没処理されるという数奇な運命をたどっている。日本でも「潜水艦カッペリーニ号の冒険」(22)としてドラマ化されたが、この後日談も映画化したら興味深いものとなるだろう。
『フェラーリ』(7月5日公開)
1957年。イタリアの自動車メーカー、フェラーリ社の創業者エンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー)は、難病を抱えた息子ディーノを前年に亡くし、会社の共同経営者でもある妻のラウラ(ペネロペ・クルス)との関係も冷え切っていた。
そんな中、エンツォは愛人のリナ(シャイリーン・ウッドリー)とその息子のピエロの存在を妻に知られてしまう。さらに会社は業績不振に陥って破産寸前となり、競合他社からの買収の危機にひんしていた。エンツォは、起死回生の一手として、イタリア全土1000マイルを縦断する過酷なロードレース「ミッレミリア」に挑む。
マイケル・マン監督が、ブロック・イェーツの『エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像』を原作に、私生活と会社経営で窮地に陥った59歳のエンツォが挑んだレースの真相を描く。製作も兼ねたドライバーが、癖の強いエンツォを見事に演じている。まさにカメレオン俳優の面目躍如といった感じだ。
ところで、マン監督が製作に回った『フォードvsフェラーリ』(19)にもエンツォは登場したが、あの映画はフォード側(アメリカ)から見たものだったから、今回は逆側から描いたことになる。つまりこの2作はコインの裏表のような映画なのだ。
ただ、この映画はレースシーンの音や映像はすごいのだが、会社の経営や妻と愛人の間で悩むエンツォの姿を映す比重が大きいので、エンツォやレーサーたちのレースやレーシングカーに注ぐ狂気のような情熱が、『フォードvsフェラーリ』のようにストレートに伝わってこないところがあった。
(田中雄二)