(左から)大竹しのぶ、多部未華子 (C)エンタメOVO

 高校入学を控え人生の転機に直面したライリーの頭の中で新たな感情が現れる。人間が抱く感情たちの世界を舞台に描き、アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞したディズニー&ピクサーの映画『インサイド・ヘッド』の続編である『インサイド・ヘッド2』が、8月1日から全国公開された。日本版で前作に引き続きカナシミを演じた大竹しのぶと、最悪の将来を想像し、あたふたと必要以上に準備してしまう新キャラクターのシンパイを演じた多部未華子に話を聞いた。


-前作についてはどのように思いましたか。


大竹 まず、頭の中の感情が主人公というのがすごい発想だなっていうのと、人間の感情の最初にヨロコビがあって、みんながヨロコビを持って生まれてくるという考え方がすごく感動的だなと思いました。あとは、やっぱり色が美しい、画面が本当に美しいなと。


多部 私もピクサー作品は大好きで、前作を映画館に見に行った時に、設定がすごく斬新なのに頭の中の感情には誰でも共感できるから、すごい話だなと思った記憶があります。例えば、その思い出はこっちに、取っておきたいものはこっちに、忘れたいものはこっちに、みたいなことはきっと誰にでもあるだろうから、映画の中でそれを再現しているのはすごいなと思いました。


-大竹さんはカナシミ役で続投、多部さんはシンパイ役でピクサーアニメーションの吹き替えに初挑戦でしたが、実際に演じてみてどう思いましたか。それと今回声優をするに当たって何か気を付けたことはありましたか。


大竹 基本的には、もともとあちらの方がやっている英語のスピードに合わせなければならないのですが、それほど違和感なくできたことに自分でも驚きました。アフレコをしたのは8年ぶりなのですが、すぐにカナシミの声になれました。何かを気を付けようと考えることもなく、普通にできました。最初の時は、演出の方に「ここはもう少しゆっくり」とか言われたのですが、あまり注意されることもなく、順調にできてうれしかったし、それだけカナシミは私の体にも入り込んでいたんです。


多部 私はオーディションでシンパイ役に決まりました。シンパイのオリジナルの声はハスキーな感じだったのですが、「ハスキーじゃなくてもいいので、ちょっと癖のある声にしたい」と言われて行き着いた声でした。ちょっとだけ癖のある声でずっとしゃべっていたので、シンパイなりの喜びというか、感情表現をその声でずっと出し続けることができるかなと不安を持ったままで終了しました。


-大竹さんから見たシンパイ役の多部さん、多部さんから見たカナシミ役の大竹さんのそれぞれの印象について聞かせてください。


大竹 多部ちゃんの声は、舞台でもとてもはっきりしていて、他の人にはない声を持っていると思います。今回のシンパイ役もぴったりな感じでした。せりふのスピード、活舌、全てにおいてパーフェクトです! 私は声優ではないので、声優さんたちは本当にすごいなといつも思います。声だけでやるというのは本当に難しい。今回のヨロコビの役は、小清水亜美さんが担当されたのですが、新たなヨロコビが誕生した感じがしました。みんな素晴らしいです。


多部 この映画のメインはヨロコビですが、カナシミとシンパイが話す場面も多かったので、大竹さんと声だけでもご一緒できて、同じ作品に声を乗せることができてうれしかったです。カナシミは特徴のある声ですが、大竹さんっぽくないところがすごくいいと思いました。

-今回は主人公ライリーの思春期における複雑な感情が描かれていましたが、どう感じましたか。


大竹 やっぱり感情が増えた分、複雑になってきているということと、友人関係がうまくいかなくなったことも含めて、家族愛で乗り越えるだけではなく、感情たちが活躍して、つまり自分の力で乗り越えるところが面白い。「大きくなるとヨロコビが少なくなる」というせりふなど、グサっとくるものがたくさんあって、やっぱり大人になっていく過程でこうした感情というのは誰にでもあるわけだし。本当によくできているストーリーだなぁ。


多部 学校生活で、ライリーが先輩たちの前でかっこをつけてみたり、ちょっと気取ってみたりするのはすごくよく分かるなって。本当にいろんな感情が入り交じっていて、共感できることばかりで、誰もが一度は歩んできた道を表現しているのがすごいなと思いました。


-今回それぞれが演じたキャラクターについてどう思ったのかということと、完成作を見た印象を。


大竹 カナシミはライリーがつらい思いをしたり、苦しい思いをしていると、悲しくて涙が出てきちゃうから、やっぱりカナシミはライリーが幸せになるために存在するんだということが分かって、カナシミも絶対に必要なんだなと思いました。出来上がった作品については、前作も好きでしたけど、今回の方がもっと深くなっている感じがして、もっともっと好きになりました。


多部 初めに、「シンパイは1人で突っ走って、引っかき回す。皆と協力し合うという感情ではないので、共感しながら声を入れることが難しいかもしれない」と言われました。確かに、シンパイは悪者っぽく見えた方がいいのかなと思う半面、やっぱりそれはライリーのことを思って、愛があるから心配して先回りして守ろうとするという面もあるので、そこがすごく難しかったです。でも、見れば見るほど愛くるしくなってくるというか…。


大竹 シンパイ、頑張り過ぎだよね。


-この作品のキャラクターの中で、カナシミとシンパイ以外で気になるキャラクターはいましたか。


大竹 どれもが必要な感じはしますが、イカリが結構好きですね。怒りがあって変化が起きるみたいな。そういう考えに行けばいいなというのもありますし。「ダリィ」って言うのはすごく分かります。「ダリィ」って言ってソファーに寝転がるのはすごく幸せな時間なんで…(笑)。


多部 ムカムカも必要ですよね。「どういうこと」とか「何言っているの」みたいな。1回自分の中で反発してみてみると、そこから理解して、冷静になって、またさらにいろんな感情が芽生え始める。


-ピクサーのアニメーション作品の中で特にお気に入りの作品があれば。


多部 私は『モンスターズ・インク』(01)です。子どもがいるので、今ディズニーとかピクサーとか、毎日のように何かしら見ています。


大竹 『リメンバー・ミー』(17)も面白かった。『ファインディング・ニモ』(03)もすごいけど、やっぱり『トイ・ストーリー』(95)かな。でも『リメンバー・ミー』かな(笑)。一つには決められませんね。


-人によって感情たちのリーダーが違っていることが作品の中でも描かれていますが、ご自身の中ではどの感情がリーダーですか。


大竹 やっぱりヨロコビですね。喜びに向かっていきたいっていう。


多部 私もヨロコビでありたいと思いつつ、シンパイかもしれない。何かいろいろと先回りをして結構考える。「どういうことなんだろう」「これってどういうつもりで言ったの」なんて心配しちゃうことも多いので(笑)。


(取材・文・写真/田中雄二)