NHKの大河ドラマ、51作目となる『平清盛』がいよいよ始まった。前作の『江』については、このレポートで一言も触れなかったが、それは自分が見続けることに途中で挫折してしまったから。その理由はあえて言わないが、今回は最後まで楽しめそうな気がする。

とは言うものの、『平清盛』の初回視聴率は17.3%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。『龍馬伝』の23.2%はおろか、『江』の21.7%にも及ばなかった。ただ、『江』は後半の18話以降、一度も20%を超えたことはなく、全体でも8回しか20%以上を記録していない。『平清盛』の今後の視聴率推移は気になるところだ。






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さて、そんな『平清盛』だが、大河ドラマで平家が主役となるのは、1972年の『新・平家物語』以来、40年ぶり。大河ドラマ全体としては、1966年の『源義経』、1979年の『草燃える』、2005年の『義経』でも作中に平清盛は登場しているが、タイトルに清盛の名をつけて平家が描かれるのは、今回が初めてとなる。その清盛を演じるのは、松山ケンイチ。これまでは、辰巳柳太郎(『源義経』当時61歳)、仲代達矢(『新・平家物語』当時39歳)、金子信雄(『草燃える』当時56歳)、渡哲也(『義経』当時60歳)らが演じてきたので、最年少の清盛でもある。

ただ、初回の松山ケンイチは顔見せ程度。大部分は清盛の出生の秘密を描く場面で占められていた。その清盛のキャラクターをも左右する出生の経緯だが、このドラマで採用されたのは、清盛の実の父親は白河法皇で、母親は白河法皇の元にいた白拍子の女性というものだった。この白河法皇が清盛の父親であるという話は、「祇園精舎の鐘の声~」で始まる「平家物語」の中にもある。「巻第六」の「祇園女御」について語られる部分の冒頭だ。

「また古い人の申しけるは、清盛公は只人にはあらず、まことには白河院の皇子なり」

ちなみに「平家物語」では、このあとに祇園女御が清盛の母親だとも伝えている。すでに子を宿していた祇園女御を法皇が忠盛に与え、清盛を生んだというものだ。

また、明治期に発見された「仏舎利相承系図」には、祇園女御の妹が清盛の母親であるという記述があり、一時期はこの説が注目されたらしい。ただ、平安時代後期の公卿である藤原宗忠が書いた日記「中右記」には、白河法皇の周辺に仕えていた比較的身分の低い女性が忠盛の妻となり、清盛を生んだという内容が書かれていて、現在はこの説を推している人も多いようだ。

ということで、このドラマでは、白河法皇(伊東四朗)の近くにいて、祇園女御(松田聖子)が妹のように可愛がっていた白拍子の舞子(吹石一恵)という女性が清盛の母親として描かれた。しかも、朝廷に災いをもたらす子を宿したとされた舞子が院を逃げ出し、忠盛(中井貴一)がかくまい、最後は忠盛が舞子を妻にしたいと法皇に申し出るという流れだったので、忠盛の妻が清盛を生んだと言えなくもない。

ドラマは歴史物であってもやはりフィクションなので、脚色は当然ある。その中で、専門家でも意見が分かれる問題を、いろいろな説をふまえてこういうストーリーにしたのかと考えると、それだけでもけっこう面白かった。

ストーリーの組み立て、構成という意味では、出だしも良かったと思う。源頼朝(岡田将生)が政子(杏)から平家滅亡の知らせを聞く場面から始まり、そこから岡田将生によるナレーションへとつながって、時代をさかのぼり清盛の生涯が語られていくという構成。これまで源氏に対して清盛はアンチ・ヒーローとして描かれることが多かったので、源氏の大将である頼朝が、「武士の時代を作ったのは清盛なのだ」と、ある種のリスペクトを持って清盛を語り始めたのは面白かった。まあ、これから武士を語るのに、岡田将生の繊細な声で大丈夫なんだろうかという不安はあったけれども……。

ちなみに、脚本は『ちりとてちん』の藤本有紀。個人的には、ここ10年くらいの朝ドラで一番ハマったのは『ちりとてちん』だった。落語のネタを絡めつつ、幾重にも積み重ねたストーリー構成は見事の一言。そのワザを発揮して新しい清盛像を描くのかと思うと、やはり期待せずにはいられない。





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映像面では、『龍馬伝』で導入されていた人物デザイン監修がまた入っていた。『龍馬伝』ではホコリを表現するコーンスターチが話題になったが、初回を見るかぎり、『龍馬伝』の時よりは抑えていたような気がする。今回、コーンスターチは、武士や民衆の生活と貴族社会とのメリハリをつけるためにも使われるようなので、いわゆる意図的な“汚し”が、シーンによってどう変わるかにも注目してみたい。

キャスト陣では、初回から中井貴一や吹石一恵がいい仕事をしていた。今後、平家方では上川隆也や成海璃子、源氏方では玉木宏や武井咲、朝廷側では松田翔太、山本耕史、井浦新(ARATA)、松雪泰子なども出てくるので、主演の松山ケンイチだけでなく、どの役者がどんな印象を残してくれるのかは楽しみだ。中でも気になるのが、時子を演じる深田恭子。“王朝文学を愛する夢見がちな女性”というキャラクターで登場するようだが、時子は夫である清盛の死後、壇ノ浦で安徳天皇を抱えて海へ飛び込む激しい女性でもある。その変化をどう演じるのかは興味深い。

とにかく、今回の大河は、楽しめそうな要素がいろいろある。「画面が汚い」と気に入らない知事サンもいるようだが、たとえこのまま視聴率が上がらなくても、最後までじっくり見てみようと思う。 

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。