とにかく「頭のネジを簡単に外してくれる曲」が受け入れられる
――保守化することと馬鹿になることは、イコールなんでしょうか。
マキタ:たとえばサッカーの国際戦でも思いますけど、普段からJリーグやヨーロッパのチームを詳しく追っているわけでもない人が、とりあえず騒ぎたい、と集まってくる。そこで馬鹿になって楽しんで、浄化されて、また月曜から働けると。
やっぱり誰しも働かなきゃいけないし、経済的にもしみったれた世の中だから、いっときでも楽しませてくれよ、っていう欲求はすごくあると思います。だから確実に、安全パイに盛り上がれる場所に集まってくる。それが保守的な傾向と結びついているのかなと。
――なるほど。
マキタ:日本人って基本的にひとりじゃ踊れないし、ハグなんて普通の距離感では無理ですよ。だけど曇のない空間をきっちり作って、優しくカスタマイズして提供すれば、ちゃんと安心して乗ることができる。フェスのホスピタリティがどんどん上がっていったのも、まさしく日本らしいガラパゴス化だと思うんです。
海外のフェスって相当汚いって聞くでしょう? そこまでしなくても別にいいじゃん、っていう考えだと思うんですけどね。日本人はそこを許さない。ホスピタリティをすごく向上させることで動員も上がっていく。そこに来るのは中間層ですよね。
そうなると受け入れられるのは難解なアーティスト性や思想ではない。4つ打ちとか、大合唱できるメロディがあるとか、とにかく頭のネジを簡単に外してくれる曲。すみやかに馬鹿になれる曲、というか。
――それは、アーティストから見ると不愉快なことかもしれません。
マキタ:もちろん文句言う人はいるでしょうけど、それすらも取り入れていきながら、自分たちのやりたいことを啓蒙していく強さとかたくましさ。それがアーティストには必要だと思いますね。観客不在の音楽をやりたいのであれば別ですけど。フェスで「…最近の音楽は」とか面倒なことを言うのであれば「うーん、じゃあ他でやれば?」っていうことになりますから。
フェスへの「他ジャンルの参入」が意味するものとは?
――面倒な思想は別にいいやという風潮が、アイドルなどの参入に繋がっていったんでしょうか。今年はついに『SUMMER SONIC』にTOKIOが出ますけど。
マキタ:もうこれは、かつてのサマソニじゃないよね。少なくともロックフェスではないと思うけど。でも、フェスが定着して大型化していけば、どうしても思想はいらなくなりますよ。
どんな大企業でも最初はベンチャーだったわけで、最初は社長の顔も見えてた。だけど業務が安定していくと、今度は企業体を安定させていくこと……単純に言うと儲けましょう、関わっている人たちをなるべく食わせていきましょうっていうことがメインになっていく。
そしたら初代の社長の思想とか、むしろ邪魔になってくるぐらいで。それは自然の成り行きだと思います。だから大型のフェスは、なるべくして今そうなっているんですよ。今さらロック的な革命は期待できないんじゃないかな。