松本潤と有村架純の共演で、「この恋愛小説がすごい!」第1位(2006年)に輝いた島本理生氏の小説を映画化した『ナラタージュ』のBlu-ray&DVDが5月9日に発売される。この作品は、高校教師・葉山貴司とその元教え子の女子大生・工藤泉の切ない恋の行方を描いたラブストーリー。行定勲監督が『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)の直後から企画を温めていたという本作に込めた思い、共演した2人の印象について語ってくれた。
-この映画はもともと『世界の中心で、愛をさけぶ』の直後から企画がスタートしたそうですね。
『世界の中心で、愛をさけぶ』が、純愛映画として世の中に認められたので、同じスタッフでやろうということでスタートしたのが『ナラタージュ』です。ただ、この映画は『世界の中心で、愛をさけぶ』よりも登場人物の年齢を上げています。大人の階段を上りかけた主人公が、どうにもならない恋愛のもどかしさを体感する。そういうものを狙っていました。
-その理由は?
僕は『ナラタージュ』を、原田知世さんの『早春物語』(85)に重ね合わせているのですが、僕らが中学生や高校生の頃、原田さんや薬師丸ひろ子さんの主演で、少女がいろいろな経験をして傷つきながら大人に成長していく映画がたくさんありました。『早春物語』でも、主人公が中年男性に恋をする。当時はその感情が分からなかったけど、大人になると分かってくる。恋愛の苦しさやわずらわしさ。『ナラタージュ』には、そういうものが全て詰まっています。
-なるほど。
その上、ある意味で『ナラタージュ』は社会の縮図です。2人の男女が出会ってしまったことから、互いに依存したり、期待したりした揚げ句、苦い思いだけが残っていく。さらにそこにもう1人、自分が他人を変えられると信じている小野くん(坂口健太郎)という男の子が加わりますが、その期待が裏切られた時、彼にも暴力的な感情が芽生える。そこにあるのは、人間の弱さや愚かさ、身勝手さ、無自覚さ。恋愛映画は、そういうものを全部描くことができる。だから、僕はこの映画をやろうと思ったんです。
-恋愛という部分にこだわった訳ではないと?
『ナラタージュ』の登場人物の感情を、会社や仕事の人間関係に置き換えてみると、全て同じような形になっているはずです。僕はそれが面白いと思っているけど、お客さんには恋愛映画と思ってもらっていい。その中に「恋愛と言っているけど、これは恋愛だけのことじゃないよね」と気付いてくれる人がいれば、話が広がって面白くなるだろうと。
-主演の松本潤さんの印象は?
松本くん本人は面白い人で、気配りもできるし、この映画で演じた葉山とは全く違います。でも、そう見えているだけで、内面は分からない。どこかに葉山のような部分もあるかもしれない。それが何なのか、こちらで取捨選択するよりは、自分で選んでもらった方がいいだろうと。本人は「役者ではないから」と謙遜していたけれど、「俳優として来てくれと言われているなら、面白い試みなのでやりたい」と言って、そこにちゃんと乗ってくれた。まさにプロ意識です。
-その結果はいかがでしたか。
普通の人としてそこにいるんだけど、「なぜ泉はこんな人に振り回されているの?」という不可解さもある。お客さんには「なぜあんな男がいいの? そんなに悩んでいるなら、別れればいいじゃない」と思いながら映画を見てほしかった。そういうリアルな部分がないと、映画が駄目になる可能性がありますから。その期待に応えてくれた松本くんはある意味、この映画の立役者です。
-泉を演じた有村架純さんの起用は、監督の希望だったそうですね。
泉は自分で自分を汚していく女性。それを誰に演じてもらうかと考えたとき、「こんなことなら、恋愛なんかしなければよかった」という思いが自分の中に生まれる女優がよかった。そこに有村さんの姿を想像してみたら、これ以上の人はいないだろうと。彼女は女優という仕事に真面目に向き合おうとしている人で、自分の中で感情表現というものをちゃんと考えている。テレビでインタビューに答える姿などを見ていると、出過ぎてはいないけれど、その笑顔の奥にはかたくなな部分があるように思えた。だから、きっとやってくれるだろうと。
-実際に演じてもらっていかがでしたか。
撮影では、見たこともないような表情を何度も見せてくれました。それは、台本に言葉で書けるようなものではなく、「そうなってしまった」という顔。それこそ映画の醍醐味(だいごみ)です。あるとき、カットがかかった後、彼女が「今、気持ちが表情に出てしまったんですけど、やり過ぎですか?」と聞いてきたんです。「良かったけど、そう言うなら出ていないのも見てみたい」と答えたら、「分かりました」と言って次のテイクは出さずにやるんです。微妙な違いだけど、見るとやっぱり分かる。で、「出ていた方が面白くない?」と言ったら、彼女も「私もさっきの方がいいと思いました」と。そんな会話を何度も繰り返しました。
-そういう生々しい表情が、映画に収められているわけですね。
「こんな女性の顔を見たことあるな」、「女って怖い」と思わせる攻撃的な表情をするんですよね。台本にはただ会話が書いてあるだけなのに。そこからそんな表情が生まれるのは、やっぱり役者の力量です。彼女は本当に素晴らしかった。改めて、うまい役者だと思いました。
-そういった部分を含めて、DVDの見どころは?
最初に編集したときは3時間半ぐらいあって、完成した映画はそこから1時間近くカットしています。そのカットした部分を改めて編集して、「未公開シーン」として特典映像に収録しました。これがすごく良くて、みんなに「なんで切ったの?」と言われます(笑)。かなり見応えがあるので、これを見ると「3時間半バージョンを見たい」という気持ちになるかもしれません。
-今までのお話を伺っていると、3時間半バージョンも見たくなります。
もともとはもっと漂うような感じを目指していたので、3時間半バージョンを作ったら、全然違った見応えのある作品になるでしょうね(笑)。
(取材・文・写真/井上健一)
『ナラタージュ』Blu-ray&DVD
5月9日(水)発売&レンタル開始
Blu-ray 豪華版 ¥6800+税
DVD 豪華版 ¥5800+税
発売元:アスミック・エース/KADOKAWA
販売元:東宝
※DVD 通常版 ¥3800+税 同時リリース