里千代金役の里アンナ

 奄美大島に流された吉之助(鈴木亮平)は、思いやりと優しさにあふれた人柄で信頼を得て、島民たちとの交流を深めていく。その1人が、愛加那の義理の姉でもある島唄の名手・里千代金だ。演じているのは、オープニングテーマで美しい歌声を披露している奄美大島出身の里アンナ。初めてのテレビドラマ出演の感想、故郷・奄美大島での撮影の舞台裏などを語ってくれた。

-故郷の奄美大島で撮影した感想は?

 テレビドラマに出演させていただくのが初めてだったので、ロケも何もかも、全てが初めて。それを故郷の奄美大島でできたことが、とても感慨深かったです。なぜ私はこの現場にいるのだろうかと、不思議な気持ちになりました。

-初めての撮影はいかがでしたか。

 初日の撮影は沖永良部島だったのですが、雨で撮影ができなくて、公民館で待たせていただくことになったんです。初めてだったので緊張していたのですが、その間に皆さんとお話することができたおかげで、少し落ち着くことができました。鈴木(亮平)さんや二階堂(ふみ)さんからは、「撮影で歌うので、島唄を教えてほしい」というお話もいただいて…。撮影が中止になってスタッフの皆さんは大変だったと思いますが、そういう時間が取れたのは、私にとってはありがたかったです(笑)。

-オープニングテーマの歌唱に続いて、出演が決まったときの気持ちは?

 オープニングテーマを歌わせていただくことになったときも、どこか他人事のような気持ちでした。私は普段、あまり感情が表に出るタイプではないのですが、試写会で第1回を見たときは、感動して思わず涙が出ました。出演が決まったときは、ものすごく興奮していたみたいで、マネジャーさんに喜びをそのまま伝えたら、「初めてそんな言葉を聞きました」とメールが返ってきて(笑)。そのときは、うれしさと同時に、「大丈夫かな?」という不安と緊張も湧いてきましたが、うれしさの方が勝っていました。

-里千代金は、力も強くて無骨な富堅の妻ということですが、演じる上で心掛けたことは?

 監督から「富堅は“言うことを聞かない子ども”だと思って、お母さんがしつけるように」というお話を頂いたので、家でおいっこやめいっこが暴れたときに叱りつけるところをイメージしてやってみました(笑)。声についても、張り上げると高くなってしまうので、そうならない方がいいのかな…と思って気を付けました。

-劇中でも見事な島唄も披露されましたが、感想は?

 普段歌うときとは、また違いました。例えば、お祝いの歌を歌うときも、2人を祝福するだけでなく、いずれは薩摩に戻ってしまうかもしれない吉之助との結婚を決意した愛加那の気持ちを考えて…。そういう気持ちを持って歌うのは、コンサートのときとは別物です。歌っている最中は、いろいろな思いが込み上げてきて、涙が出そうになりました。

-吉之助と結婚する愛加那をどんな気持ちで見守っていましたか。

 そこはすごく難しい部分だったので、もし自分が愛加那の立場だったらどうだったんだろうと、撮影のたびに胸が苦しくなりました。親が決めた相手と結婚することが多かった時代に、いずれは薩摩へ帰ってしまう吉之助への愛を貫こうとするわけですから。そんな揺れ動く愛加那の気持ちを、義理の姉として見守っていけたら…。そんなことを考えながら、演じていました。

-愛加那は奄美大島では有名人だとか。

 奄美には「愛加那」という名前のお店やお土産物、焼酎がたくさんあるんです。だから、教わらなくても「愛加那」という名前は誰でも知っている感じです。私は、小学校の社会科見学で、西郷さんが生まれた家に行ったとき、奥さんが愛加那だったことを知りました。

-鈴木さんや二階堂さんから島唄のアドバイスを求められたということですが、お二人の出来栄えはいかがでしたか。

 島唄指導の方もいらっしゃるので、しっかり練習はされていたようで、私が聴いたときは「もう十分歌えていますよね?」という感じで…(笑)。二階堂さんは何曲も歌わなければならないし、言葉も奄美のことばなので、難しかったはずです。でも、「ここはこれでいいですか?」と細かく質問してきて、一生懸命に練習されていました。鈴木さんは三線を弾きながら歌う場面があるのですが、弾きながら歌うのは、私でもいまだに難しいんです。でも、こんなに撮影がある中で、いつ練習したんだろうと不思議に思うぐらい、皆さん見事な出来栄えでした。

-鈴木さんが「奄美の空気を一緒に伝えていきましょう」とおっしゃっていたそうですね。

 鈴木さんは、奄美でよく使われる言葉をアドリブで入れてくるのですが、それは「もう何年、奄美にいるから、この言葉は使っていいんじゃないか」と、役をきちんと把握した上で使われているんです。他にも、三線を弾いて歌ったり、踊りも踊ったりしますし…。鈴木さんだけでなく、二階堂さんも高橋(努:富堅役)さんも、奄美の方に聞いたりして、ものすごく熱心に練習されていたので、奄美の空気は十分に伝わると思います。

-今回がテレビドラマ初出演ということですが、今後の活動に対するお気持ちは?

 今までミュージカルには出たことがあったのですが、ミュージカルの場合はお稽古の期間が長いので、その間に気持ちを作っていくことができました。でも、テレビドラマは瞬発力が必要です。撮影中に演出も少しずつ変わっていくので、自分の気持ちをどうつないでいけばいいのか。そんなことを考えながらやっていたおかげで、歌うときに、どんなふうに伝えるかということについて、以前よりも考えるようになりました。今回、そういういい経験をさせていただいたので、また機会があれば挑戦したいです。

-今回、初めて里さんを知った方がコンサートにも足を運んでくれたらいいですね。

 そうですね。ただそれ以上に、言葉や島唄はもちろん、吉之助と愛加那がどんな暮らしをしていたのかなど、この作品を通じて奄美のことを皆さんに知っていただけるのが、本当にうれしいです。

(取材・文/井上健一)