K-POPや韓国ドラマは、エンターテインメントであると同時に、韓国社会を映す鏡でもある。何気ない言葉やしぐさ、習慣の背景をたどると、その国ならではの価値観や歴史、人との関わり方が見えてくる。この連載では、韓国カルチャーを入り口に、知っているようで知らない韓国を読み解いていく。

▽年齢を隠す恋愛リアリティー番組


 韓国では、個人的に親しくなろうとする相手とは、まず年齢を確かめ合う。年齢が分かった瞬間、敬語を使うかタメ口でいいか、相手を「オッパ(兄さん)」「ヌナ(姉さん)」と呼ぶのかが、自動的に決まるからだ。


 ただし、誤解のないように言っておくと、これはあくまでプライベートの、個人と個人の関係の話である。会社では上司や同僚を「チーム長」「課長」といった肩書きで呼ぶのが普通で、いちいち年齢を確かめたりはしない。外国人も、韓国人とよほど深い関係にならない限り、年齢を聞かれないことが多い。年齢確認が始まるのは、個人として距離を縮めようとするとき――つまり、濃厚なプライベートの関係に入っていくときだ。


 恋愛は、その典型だろう。ただ、ここに恋愛リアリティー番組ならではの悩みが生まれる。出会ってすぐ年齢が分かると、誰がオッパ(兄さん)・ヌナ(姉さん)で誰がトンセン(年下)かという関係性が先に意識され、相手そのものを見る前に、人間関係の型ができてしまいやすいからだ。


 この問題を、ルールで取り除いてしまった番組がある。Netflixの恋愛リアリティー番組「脱出おひとり島」である。男女が「地獄島」と呼ばれる島で共同生活をしながら恋の相手を探すこの番組の最大の特徴は、参加者が互いの年齢と職業を明かしてはいけないというルールだ。年齢による役回りや先入観が生まれる前に、全員を対等な個人のまま恋の土俵に立たせるための装置である。


 年齢を封じられた韓国の男女は、島でどう振る舞うのか。そこには、日本の恋愛リアリティー番組では見られない光景が広がっている。


▽「タメ口にしよう」で始まる特別な関係


 序盤の島では、参加者たちは互いを名前に「シ(~さん)」や「ニム(~様)」を付けて呼び、丁寧語で話す。相手が年上か年下か分からない以上、失礼のないように言葉を選ぶしかない。探り合いの時間だ。


 やがて、誰かが切り出す。「タメ口にしよう(マルノッチャ)」。


 韓国語では、敬語からタメ口への切り替えは、なし崩しには起きにくい。誰かが提案し、みなが応じる。そうやって、ようやく互いにタメ口で話せる関係が作られていく。


 日本の視聴者は、ここで少し不思議に思うかもしれない。仲良くなるのに、なぜ「タメ口にしよう」といちいち宣言するのか。日本なら、親しくなれば敬語は自然に抜けていくものだ。だが韓国では、タメ口は宣言と合意を経て使う。この一言があって初めて、島の男女はタメ口で話し始める。


 一方で、島の全員がずっと年齢を伏せたままでいるわけではない。デートの権利を勝ち取ったカップルは「天国島」へ行き、そこで互いの年齢を知ることができる。その瞬間、男性が年上なら女性は「オッパ(兄さん)」、逆に女性が年上なら男性は「ヌナ(姉さん)」と呼び始める。こうして地獄島でも、年齢を前提とした人間関係が少しずつ姿を現すようになる。

▽年齢公開のあとに始まる韓国社会


 そして、最終日前夜。


 参加者たちはキャンプファイヤーを囲み、打ち解けたおしゃべりの中で、それまで隠してきた年齢と職業を、一人ずつ明かしていく。「実は◯歳です」の一言ごとに、歓声と悲鳴が上がる。年上だと思っていた人が年下だった。タメだと思っていた相手がオッパやヌナだった。この夜の盛り上がりは、番組のクライマックスの一つである。


 その盛り上がりの中で、私が最も「これぞ韓国」とうなった一言が飛び出す。参加者の一人、プロバスケットボール選手のグァンヒが、男性メンバーたちに向かって、こう言うのだ。


 「そろそろ、呼称整理をしなきゃいけないと思うんだけど」。


日本語字幕は、こうなっている。「上下関係がわかったら言葉遣いはどうする?」


 意味はきちんと伝わるが、原語を聞き取ると、もう一段面白い。グァンヒが使ったのは「ホチンチョンニ(呼称整理)」という言葉である。誰を「ヒョン(兄さん)」と呼び、誰とタメ口でいいのか。年齢が明かされた以上、それを確定させよう――韓国ではごく自然に行われる確認作業だ。


 これは、宴の終わりを告げる合図でもある。年齢のない世界で無礼講を楽しんだ時間は終わり、参加者たちは誰を「ヒョン」と呼び、誰とはタメ口で話すのかを整理して島の外へ戻っていく。恋愛だけでなく、その後の人間関係まで映し出すところに、この番組ならではの面白さがある。


▽セブチは、デビュー前に「呼称整理」を終えている


 「脱出おひとり島」では、年齢を伏せたまま関係を築き、最後に「呼称整理」を行う。では、最初から年齢が分かっている集団ではどうなのだろうか。SEVENTEENである。


 13人のメンバーは、ファンの前に立つより前から、誰がヒョンで誰がタメなのかをすでに整理している。最年長は95年生まれのS.COUPS、末っ子は99年生まれのディノ。だから彼らの自主コンテンツをどれだけ見ても、「タメ口にしよう(マルノッチャ)」という場面は出てこない。ディノはS.COUPSにタメ口で話しかけながらも、呼びかけは必ず「ヒョン」。語尾はいくらでも崩れるのに、呼称だけは変わらない。


 もっとも、その呼称は自然に決まったわけではない。年上と年下の境界が曖昧なケースでは、自分たちでルールを決めている。基本は生まれ年だが、早生まれについては実際にどの学年で過ごしたかまで考慮し、自分たちで線引きをしたようだ。例えば、96年11月生まれのウジと97年早生まれのドギョムは、本来ならタメだが、ドギョムが一学年下として学校に通ったため、ウジを「ヒョン」としている。(注:かつては早生まれの子どもが入学時期を選べたが、2003年生まれ以降、原則として1~12月生まれが同じ学年になり、早生まれ制度は廃止された)


 普段はわちゃわちゃと戯れている13人も、呼称整理は徹底している。ヒョンが付くか付かないか――それだけのことに、呼び方も、甘え方も、相手との距離感も懸かっている。だから、曖昧なままにはしておけないのだ。


 島の男女は、呼称のない世界をゼロから組み立て、最後に呼称へ帰っていった。一方、SEVENTEENは、デビュー前に呼称整理を終え、その関係をそのまま生きている。違いはあっても、どちらも人間関係の土台にあるのは「呼称整理」なのである。


▽「呼称整理」で宴は終わる


 最後の夜、隠していた年齢の公開でここまで盛り上がれるのは、日韓社会に共通の感覚かもしれない。日本人にも覚えがあるはずだ。初対面の集まりで「え、同い年だったの?」と盛り上がる、あの瞬間に少し似ている。


 ただ、韓国ではその先がある。年齢が分かった瞬間、誰がオッパ(兄さん)で、誰がオンニ(姉さん)なのか――呼び方を決めなければならない。年齢の公開は、関係の整理の始まりなのである。


 だからグァンヒのあのセリフは、単なる進行役の仕切りではない。年齢のない世界という酔いから醒めて、韓国社会に帰るための、締めのあいさつなのだ。字幕は「言葉遣いはどうする?」と訳した。でも、その向こうで「呼称整理」という一語が聞き取れたとき――その瞬間、この番組は恋愛リアリティーを超え、韓国社会を映し出す縮図となる。

筆者プロフィール


たんふる先生(韓活韓国語ラボ)。韓国語・韓国文化研究者。NHKラジオ語学講座講師や韓国ドラマの字幕翻訳を手がけ、韓国ドラマ専門誌「もっと知りたい!韓国TVドラマ」(休刊)では「ドラマで学ぶ韓国語」を15年間連載。現在は「GOING SEVENTEEN」全123話・字幕約11万行やBTSのバラエティー字幕をデータ分析し、「推しが実際に話す韓国語」を読み解いている。分析の詳細はnote「韓活韓国語ラボ」で公開中。