ソニーのフラグシップカメラα1 IIは、前モデルと同じイメージセンサーを採用

ソニーが12月に発売するミラーレスカメラのフラグシップモデル「α1 II」で、ある「事件」が起きた。カメラの心臓部ともいうべきイメージセンサー(撮像素子)を前モデルから流用するというのだ。カメラメーカーにとってフラグシップモデルは象徴的存在。開発に最も力が入る製品だ。ソニー、レンズテクノロジー&システム事業部の岸政典 事業部長も「初代の発売からおよそ3年半。この間、様々な技術革新があった。それら最新の技術を全て凝縮して搭載した」と話す。今回の目玉は、AIの搭載。被写体の認識率を上げることで、ピント制度を大きく向上させたことだ。しかし、センサーについては、21年3月に発売した同社初のフラグシップ「α1」に搭載した、5010万画素の積層型フルサイズセンサーと同じものを搭載するという。

ソニーのフラグシップカメラ「α1 II」。

レンズは、同時に発表された「F2通し」の標準ズームレンズの

新製品「FE 28-70mm F2 GM」

カメラのフラグシップといえば、基本的にセンサーは刷新されるものだった。キヤノンのデジタル一眼レフのフラグシップモデル、EOS-1Dシリーズでは、小さな変更を施した派生モデルを除き、すべてのモデルチェンジでセンサーそのものを変更し進化させてきた。ニコンも基本的には同様だったが唯一、D5と一眼レフでは最後のフラグシップになったD6は、同じセンサーを使った。ただ、これには理由があった。D6の発売は2020年。ミラーレス一眼の新たなフラグシップ「Z9」は21年の発売だ。ミラーレスへのシフトに注力していたニコンにとって、D6の開発リソースは限られたものであったに違いない。ある意味やむを得ない選択だった。さて、ソニーといえば、イメージセンサーで高い世界シェアを誇る一大メーカー。ソニーのセンサーは、多くのスマートフォン(スマホ)やカメラに採用されている。ライバルメーカーのニコンですら、ソニー製センサーを搭載したカメラが多い。そのソニーが、自社カメラのフラグシップモデルの新製品でセンサーを変えなかった。やはりこれは、大きな出来事といわざるを得ない。

同社が年明けに発売した「α9 III」のセンサーには「グローバルシャッター」という画期的な機構が組み込まれていた。一部ではα1にも、このグローバルシャッターを搭載したセンサーが採用されるのではないか、との期待があった。イメージセンサーを流用した理由について岸 事業部長は「α1で採用したセンサーは、グローバルシャッターにも匹敵するほど読出しスピードが速く、画像のひずみが極めて少ない。もともとポテンシャルが高いセンサーだった。今回は画像処理のアルゴリズムを改善することで、画質の向上を図った。α1 IIは、新しいフラグシップカメラにふさわしい進化を遂げた」と話す。「伸びしろ」が大きなセンサーだったので流用した、というわけだ。グローバルシャッターは、高画素数、高画質を実現させるのが難しいとも言われており、今回採用しなかった理由はその辺にもありそうだ。

「センサーは前モデルと同じでも、フラグシップにふさわしい進化を遂げた」と話す、

ソニー、レンズテクノロジー&システム事業部の岸政典 事業部長

流用の理由は他にもあるだろう。いくつか邪推してみると、例えば、グローバルシャッター搭載のセンサー開発にリソースを取られ、α1 IIに搭載する新たなセンサー開発の余裕がなかったのかもしれない。もしそうなら、ある程度納得はできる。あるいは、グローバルシャッター搭載のα9 IIIとα1 IIを両方買わせるためのマーケティング施策によるもの。これもありそうな話だ。この二つの理由なら、あまり問題はないと思う。しかし、スチルカメラ用のイメージセンサーは、改善の余地があまりなくなってきた、ということも考えられる。つまり、もし「物理的なセンサーの開発にあたって、ある種の限界が近づいている」ということなら、話は穏やかではない。

日本のカメラメーカーが世界で高いシェアを維持できているのは、「アナログ」に強いからだ。カメラで言えば、レンズはその筆頭。設計はコンピュータベースであっても、最後は物理的にレンズを磨き、効率的に組み立て、高い精度を維持しながら製品として成立させなければならない。イメージセンサーも、モノとして極めて高い精度を要求されるパーツの代表格だ。物理的に製造が困難な部分が、参入障壁にもなってきた。しかし、AIのようなデジタル系で処理する部分が増えれば増えるほど、競合は世界中に広がる。例えば、中国のファーウェイは、莫大な開発費を背景に、スマホに搭載するカメラのための映像・画像技術の研究開発に余念がない。AIによる被写体認識で犬と猫を見分けることができる、と胸を張って発表したのは、もう5年以上も前のことだ。

α1 IIで試写。さすがにピントの食いつきが良く、

モデルの目にしっかりとピントを合わせ続けた

(カメラ:α1 II/レンズ:FE 28-70mm F2 GM)

ミラーレスカメラの拡大で、一眼レフは販売台数構成比は1割を切り「オワコン」になった。一眼レフに比べ可動部が少ないミラーレス一眼は、電気自動車と同じく、新規参入が比較的容易だ。カメラも、デジタル系の技術が占める割合がどんどん高まっている。もうこの流れは止められない。カメラの世界市場で、日本メーカーの高いシェアを今後も維持していくためには、デジタル系の徹底的な強化が不可欠だ。最近、ある中国メーカーがレンズ交換型カメラに参入するのではないか、という噂が、まことしやかにささやかれている。過去に一度、韓国のサムスンが参入を試みたが、日本メーカーの牙城を崩すことはできず、撤退に追い込まれた。しかし、さらにデジタル化が進んだ今日、状況は大きく変わっている。もし実力のある海外メーカーが、レンズ交換型カメラに本格参入した場合、今度は、そうやすやすと追い返すことはできないだろう。「黒船」はすぐ近くまで迫っている。(BCN・道越一郎)