ライブコマース推進委員会の李赫氏と長尾純平氏がライブコマースの現状と今後の展望を語った

YouTubeをはじめとした動画配信の人気はすでに誰もが認めるところだが、昨年から動画のライブ配信に“モノを売る”という機能を付加したライブコマースが盛り上がり始めている。市場の本格化を前に、電通国際情報サービスの金融ソリューション事業部DXビジネスユニットクラウドビジネス部企画グループでシニアコンサルタントを務める李赫氏とロックアップ代表取締役社長の長尾純平氏が中核となり、ライブコマース推進委員会が設立された。二人の考えるライブコマースの可能性とは何か。マーケット拡大の戦略を聞いた。

日本ではまだ実験段階も 普及は「遅かれ早かれ」

ライブコマースムーブメントの発祥である中国では、2016年時点でユーザー数は3億5000万人以上、市場規模は約50億ドル(日本円で約5484億円)にまで達し、なかには1億円を超える年収の配信者もいるという。

では、日本ではどうか。李氏は、「まだ市場は立ち上がったばかりで、ビジネスとしての可能性は未知数」と説明する。長尾氏も、「ステージとしては、実験的な段階。インフルエンサーが登場して、ムーブメントを起こすまでには至っていない」と補足する。

しかし「遅かれ早かれ」というのが、李氏と長尾氏の共通認識だ。「メルカリ」「ラクマ」などのフリマアプリがここ数年で一気に広まったように、ライブコマースが一般的になる日はそう遠くないと予想する。「FacebookやYouTubeに決済システムが導入されるかもしれないし、著名なYouTuberがライブコマースを始めるかもしれない。現在は、その最初の一手を待っている状態。できることなら、その一手をわれわれで打ちたい」と長尾氏は語る。

“モノを売る”のはコミュニケーションの手段

そもそもライブコマースの魅力とは何なのか。購入の手間や価格のメリットを考えると、従来のECサイトのほうが勝っているといえよう。しかし、ライブコマースは、それとは求められているものが違うという。

「“モノを売る”という行為は、あくまで配信者と視聴者のコミュニケーションの手段」と李氏はライブコマースの本質を語る。視聴者はモノ自体の価値だけでなく、モノをどのようにして購入したかというストーリーに重きを置いているのだ。

「例えば、普通のクリップに一般的な用途以外の使い方はないかを番組中に議論する。その内容が面白ければ、普段は買わないようなモノでも『これなら買ってみよう』と心を動かされるかもしれない。ユーザーのコメントによってそのモノの価値が上がる可能性もある」。

ライブコマースが生み出すのは、商業的な価値だけではない。長尾氏が注目しているのは「地域活性」や「福祉」との組み合わせだ。「例えば、福祉の分野で考えると『障害者アート』というジャンルはすでにあるが、これをライブコマースの番組中でオークション形式で販売する。作品の制作者にとっては成功体験になるし、支払われたお金を福祉施設に寄付すれば、単純にモノを購入する以外の体験が得られる」。ビジネスに限定せず、幅広い目的を物販という手段に乗せることができるのも、ライブコマースの魅力といえる。

ライブコマース推進委員会は、7月13日に「ライブコマースショウ 2018」を開催予定。ライブコマースの仕組みを構築する企業、配信者となるインフルエンサー、企業のマーケティング担当など、業界のキープレイヤーたちが一堂に会し、実例紹介や最新動向の発表が行われる。

李氏は「今回が1回目の開催となるが、定期的に実施したい。集まったメンバーで業界を盛り上げていければ」とカンファレンスにかける思いを語る。日本のライブコマース市場に火をつける“最初の一手”に注目したい。(BCN・大蔵 大輔)