7年間で1500億円の「不適切会計」を発表した大手総合電機メーカー三田電機産業の裏で暗躍するなど、経済界の影の立役者にのし上がっていく男と、彼を取り巻く人々の人間模様を描いた骨太の社会派ヒューマンサスペンス「連続ドラマW 不発弾 ~ブラックマネーを操る男~」で、主人公の金融コンサルタント・古賀遼を演じる椎名桔平。熱い人間ドラマに心揺さぶられたという椎名が、本作の魅力やキャリア史上珍しいダークヒーローに挑戦する思い、女優・原田知世との初共演の喜びなどを語ってくれた。
-オファーを受けた際、本作のどこに引かれましたか。
僕は人間ドラマが好きなので、とても深い人間ドラマに引かれました。どんでん返しや今の経済を見詰めるリアルな目線もあり、企業ドラマとしても一級の面白さがあるから、引かれて当然ですよね(笑)。
-椎名さんにとっては珍しいダークなキャラクターですね。
エリートな役が多く、恵まれない環境からたたき上げられて成長していく役は今まであまり振られたことがなかったので新鮮です。こういう役を演じるチャンスを頂けてうれしいですね。
-貧しい炭鉱町で育ち、東京の証券会社に入った古賀は、ある出来事を機に欲深い人間たちへの復讐(ふくしゅう)を始め、証券業界、引いては経済界の影の立役者にのし上がりますが、古賀の魅力とは。
古賀は望んで悪事を働いていたわけではなく、世間の波に巻き込まれてそういう立場にいるわけで、若い頃に妹を救うために町を出るという強い意志から始まった真っすぐな精神性がすてきじゃないですか。お金はたくさん持っているけど、私利私欲のために稼いでいたわけではなく、お世話になった人のために働き、また、稼いだお金で困っている人がいたら救ってあげようと考えています。こういう男がいたら、男として応援してあげたくなります。
-古賀に共感しているようですが、逆に相いれないところはあるのでしょうか。
共感できないところは何もないです。だから自信を持っています。
-椎名さんは大学では経営学を学ばれていましたが、その点でも役に入り込みやすいですか。
そこが共感できない部分です(笑)。難しいですよ。経済の仕組みが分からないと芝居にならないから、しつこく調べながら、これも一つの勉強になっているんだな…と思いながらやっています。でないと古賀が経済界でそのポジションにまでいったという説得力にならないですから。
-演じる上で特に意識していることは何ですか。
3歳の頃にお父さんを事故で亡くしてからお母さんが変わってしまい、幼い妹も守らなければいけないという生い立ちですが、人間は3歳までの記憶がないといわれているから、お父さんの記憶がないんでしょうね。原作にも脚本にも書かれていないけど、ずっと父性に憧れていると思います。だから、東田さん(元三田電機社長/宅麻伸)や中野さん(元上司/奥田瑛二)と信頼関係を保つことができたのは、2人に父の面影を感じていたからじゃないかなと思いながら演じています。
-宅麻さんとは初共演、奥田さんともしっかりと絡むことは初めてのようですが、感想は?
楽しいです。先輩ですし、役柄的にも胸を借りるような相手なので、30代のぶつかっていく芝居は何の違和感もなくやらせてもらっています。一緒に時代をゆらゆら行ったり来たりしている面白さもあります。
-演じる役のスパンが長く、椎名さんは古賀の20代後半から50代後半までを演じていますが苦労はありますか。
あります。シワを隠すとかはやっていないです。でも、シーンごとに年齢表を作ってもらったので、それを意識して工夫してやっています。撮影では年齢が行ったり来たりするけど、視聴者に「言い訳させてよ」と言うわけにもいかないから、言い訳をしなくて済むように事前に確認しながら臨んでいます(笑)。
-古賀を追って不適切会計の真相を暴こうとする警視庁捜査二課管理官・小堀弓子役の黒木メイサさんとは、舞台「調教師」(05)以来、13年ぶりの共演ですがいかがですか。
当時もきれいな女性でしたが、一段ときれいな大人の女性になりました。でも、いい子なところはちっとも変わっていません。もちろん彼女の中ではいろんな成長はあると思うけど…。13年ぶりに会えてうれしかったです。僕は情報通じゃないから「メイサは確か結婚していたよな…。子どもなんているのかな…」なんて思っていたら、向こうから「子どもが2人いて…」なんて話してくれて、打ち解けちゃいけない役だけど、打ち解けちゃいました。
-内縁の妻・村田佐知子役の原田知世さんとの初共演はどうでしょうか。
若い頃に映画やテレビで拝見させていただいていたけど、まさかお会いできるとは思っていなかった、あの原田さんが目の前にいらっしゃって、僕のパートナー役を演じられるというのは最初で最後でしょうね。経済ドラマの裏の人間ドラマの核を作るとても大事な役で、古賀が同業者には見せない一面を見せられる唯一の存在です。佐知子さんの目を通して、スーツを脱いだ生身の古賀が見えるシーンもあります。まだほとんど撮っていませんけど…。最後に残してあるんでしょうか?(笑)本当に楽しみです。
(取材・文・写真/錦怜那)
ドラマはWOWOWプライムで6月10日放送開始(毎週日曜午後10時~全6話)(第1話無料放送)