外食とおせちの関係を解説

【外食業界のリアル・16】近年、おせち市場が伸びている。昨年は原材料高騰によって価格改定をせざるを得なくなり、販売量は落ちたもの付加価値のあるおせちは依然として人気があり、全体として微減にとどまった。以前はおせちといえば、百貨店のイメージが強かったが、今では量販店や通販、オンラインモール、コンビニ、そして飲食店と多くの業界が参入している。今回は外食業界とおせちについて語りたいと思う。

おせちとは何か?

おせちは漢字で「御節」と書き、季節の節目を祝う特別な料理を意味する。おせちの五段の重箱にそれぞれ意味が本来はあるのだが、郵送をメインとした現状では1段や2段構成のものが多く、その風習が薄らいでいるように思われる。使われる食材には、五穀豊穣、不老長寿、子孫繁栄などを願いが込められたものとなっている。

例えば、「黒豆」は「マメ(豆)に元気に働けるように」と「無病息災」が祈られており、関東でシワが寄るまで煮ることから「シワが寄るまで長生きする」という意味があり、逆に関西でシワがなく艶やかにすることで「不老長寿」を意図している。「ごぼう」は地中深く根を張ることから「延命長寿」や「家族安泰」であり、叩きごぼうが「叩いて開かれる」の意味で「開運」の意味もある。

また「えび」は、「長いヒゲと曲がった腰」が長寿を体現しており、「目が飛び出している」ことから「めでたし(目出たし)」を連想し、慶事に適している食材とされている、などのように一つ一つに食材に思いが込められているものとなっている。

近年の傾向について

従来、おせちは家で作るものという考えが根強くあった。おせちのセット販売も百貨店は昔からやっていたが、値段も高価なものが多く、有名店が手掛けたものでは30万円近くするものもある。近年は、おせちを家で作るということも減ってきている。数の子や田作りなどの自宅で作るのが大変なものだけを買って、雑煮だけ家で作るというのが一般的ではないだろうか。それに伴い、だんだんとおせちのセットを注文する方が増えているように思う。

その理由は、「おせちを全て自分で作るのは大変だが、セットで買っても意外にリーズナブルでおいしい」と気が付いたというのが大きいと思う。おせちの食材は、意外に高価で単品で買っていくと総額が想像以上に高くなってしまう。しかし、各社が提供しているおせちは数千円台のものからラインアップがあり、実はセットを買った方がお得となるのである。

もちろん正月の縁起物ということで財布の紐も多少は緩むものの、セット品はこだわりがあり趣向も凝らしたものも多いので満足度が高く、一度その気軽さとおいしさを知ってしまうと、自分で作る正月に戻れない。

外食業界のおせち

外食業界でも昔からおせちをずっと提供する店はあったが、ここ近年で参入するチェーン店などの参入も増え、販売に力を入れる傾向にある。コロナ禍では、EC販売に力を入れる企業が多かった。しかし、コロナ明けは人手不足の状況下で店舗運営に注力する必要もあり、停滞気味となっている。おせちは単価も高く販売数も多く、さらに外食業界としての良さも生かしやすいことも後押しをしていると思う。

昨年は自社で養殖から手掛けて、ふぐ屋や海鮮系居酒屋、寿司を展開する飲食店のおせちを注文した。一般的なおせち料理と魚料理のコラボレーションといった感じで見た目も味も大満足であった。寿司は冷凍のものだったが、電子レンジで少し温めてから余熱でジワジワトと溶かしていくパッケージとなっていて、冷凍技術の進化に驚いた。そして、おせちを食べたことでその店のことがさらに好きになったわけである。

そんなわけで応援したい飲食店がおせちを提供しているのであれば、ぜひ食べてみて欲しい(とはいえ、この原稿が出るときには注文を打ち切っているおせちも多いかもしれないが…)。

おせちに期待

おせちは一家族で何個も注文せずに一つが基本であるため、最初の一つに選ばれることが重要だ。通販大手のおせちは夏前から販売をされており、早割だとなんと1万円も安くなるので驚きである。外食業界自体はその点、夏ぐらいに準備を始めて9月後半から予約開始となっていることを考えると、正直なところ出遅れているとはいわざるを得ない。

理由は、一番の盛り上がりを見せる忘年会コースの準備に夏まで追われていることがある。なんだかんだメインはおせちではなく、忘年会であり、絶対にコケるわけにはいかない。が、外食業界で培った食のノウハウや食材ルートなどを生かしていくことで差別化できるはずである。とはいえ、すでに売り切れとなっているおせちも出ているので、うれしい限りではある。早くも来年のおせちに期待している。(イデア・レコード・左川裕規)