6月の歌舞伎座では、梅雨の鬱陶しさを忘れさせる舞台を上演中。必見は、共に大阪の住吉鳥居前から始まる、尾上菊五郎主演の昼の部『野晒悟助』と、中村吉右衛門主演の夜の部『夏祭浪花鑑』だ。

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『野晒悟助』は、河竹黙阿弥が五世尾上菊五郎に書き下ろした世話物狂言。侠客・野晒悟助(菊五郎)は、剣学指南の提婆仁三郎(市川左團次)を頭とする提婆組の狼藉から、土器売の詫助(市村家橘)と、扇屋の娘・小田井(中村米吉)を救い、侘助の娘・お賤(中村児太郎)と小田井から惚れられる。翌日、仁三郎が現れ、百両出すか命を賭けた勝負をするかと無理難題をふっかけるが、悟助は母の命日ゆえ喧嘩を買うことができない。そこへ侘助が、お賤が身売りして作った百両を持参。折しも命日も過ぎ、悟助は四天王寺へ仁三郎を討ちに行く。

とにかく見ものは、菊五郎のいなせな悟助。ふたりの娘から思いを寄せられるのも納得の男ぶりだ。荒唐無稽な話だが、黙阿弥らしい華麗な台詞や、他作品を想起させる趣向が楽しい。さらに四天王寺山門の場では、菊五郎劇団ならではの見応えある大立廻りが展開。

『夏祭浪花鑑』は、並木千柳、三好松洛、竹田小出雲の義太夫狂言。団七九郎兵衛(吉右衛門)は、恩義ある玉島兵太夫の息子・磯之丞(中村種之助)の恋人・琴浦(米吉)が大島佐賀右衛門(中村吉之丞)に言い寄られているのを助け、妨害しようとする佐賀右衛門の一味・一寸徳兵衛(中村錦之助)とは、団七の女房・お梶(菊之助)の仲裁をきっかけに義兄弟の契りを結ぶ。その後、釣船三婦(中村歌六)のもとに身を寄せる磯之丞と琴浦。高津神社の夏祭りの日、三婦の女房おつぎ(中村東蔵)は徳兵衛の女房・お辰(中村雀右衛門)に磯之丞を託そうとするが、三婦はお辰に色気があるからと反対。するとお辰は焼けた鉄弓を顔に押し当てて傷をこしらえ、磯之丞を預かる。一方、琴浦は、佐賀右衛門から大金を得ようとする団七の舅・義平次(市村橘三郎)にさらわれてしまう。団七は義平次を追いかけ、祭り囃子が響く中、ついに彼を殺めてしまう。

声にも姿にも大きさと若々しさが光る、吉右衛門の団七。義平次を殺す長町裏の場は様式とリアルがないまぜになって凄絶だ。登場人物達がそれぞれ、男/女が、立つ/立たないと、意地・名誉を重んじる本作。歌六の三婦も雀右衛門のお辰も、品を損なうことなく、各々のプライドを描き出した。なお、菊之助の長男・寺嶋和史は団七倅・市松役。菊五郎と吉右衛門の血を受け継ぐその雄姿に客席から大きな拍手が。

この他、中村芝翫、尾上松緑、中村雀右衛門が演技合戦を繰り広げる夜の部の『巷談宵宮雨』は、夏の祭り、当てが外れた30両、肉親殺しなどが『夏祭浪花鑑』と符合。中村時蔵が健気なヒロインを好演した昼の部の『妹背山女庭訓』と菊之助が文屋康秀を軽妙に踊った『文屋』では共に官女が登場。随所に繋がりを感じさせる演目立ても面白い。

歌舞伎座六月大歌舞伎は6月26日(火)まで、東京・歌舞伎座で上演。

取材・文:高橋彩子