天才ギャグ漫画家として名をはせるも、私生活では駄目な父親だった赤塚不二夫の破天荒な人生と、彼を支える家族の姿を描いた土曜ドラマ「バカボンのパパよりバカなパパ」で、赤塚を演じる玉山鉄二。これまでにない振り切った演技で赤塚に成り切った玉山が、使命感から本役を引き受けたという熱い思いや、今の世に響くであろう本作が持つ意義などを語ってくれた。
-国民的な漫画家である赤塚不二夫役のオファーを受けたときの感想は?
最初は「この役を演じるのは、僕じゃないのではないかな…」と、首を縦に振ることができませんでした。
-それにもかかわらず引き受けた理由とは?
赤塚不二夫さんについては、がむしゃらにギャグ漫画を描き、ばかをやり続けた男という知識しかなかったので、いろいろ調べました。その中で、彼が本当に残したかった、笑いの奥にある大切なものや、戦争体験をしたからこそ、笑いの素晴らしさを伝えたいという思いが強かったことを知りました。また、彼が大事にしていたのは、貧乏人も金持ちも、天才もそうでない人も、ハンデを背負っている人も健常者も、関係なく博愛することで、争いごとの原因となる垣根を取っ払ってばかをやれば、自然とみんなが笑顔になって手をつなげるという考えや、人を許す美学に共感しました。だからこそ、この役はやらなきゃいけないと感じたし、今は、この作品に出会えて良かったと思っています。
-誰もが知る人物を演じることについては、どうお考えですか。
実在の人物を演じるときは、常に責任感がつきまとって、大きな十字架を背負いながら演じなければいけないと思っています。でも、そこに凝り固まってしまうと、赤塚さんが本来伝えたかった「セオリーから外れること」ができなくなるので、今回はあえて気負わず、自分が持っている倫理や理性のブレーキを外して暴れ回ることを心掛けました。
-これまでのイメージとは違う玉山さんが映し出されていて、「おそ松くん」の人気キャラクター・イヤミの「シェー」のポーズを取ったり、セーラー服の女装姿なども披露されたりしていますね。
普段は内気で恥ずかしがり屋だけど、現場に入ると、全く恥ずかしがることなく、奇抜なことでも何でもできるので、ギャグも女装も平気でした。女装に関しては、撮影時よりも衣装合わせのときの方が恥ずかしかったぐらいです(笑)。
-本作の原作者で赤塚さんの娘のりえ子さんから、何かアドバイスはもらいましたか。
「玉山さんが感じたように自由にやってください」と言われて、背中を押されたような気分になりました。でも、せっかくやるなら、今まで赤塚さんを描いたドラマや映画の中でのナンバーワンになろうと、いろいろなリサーチをしたので、役を引き受けた時点で必ず成功する自信はありました。
-NHK作品では「マッサン」以来の主演ですが、座長として心掛けたことはありますか。
家族役のキャスト(比嘉愛未、長谷川京子、森川葵、馬場徹)が、赤塚さんが考えるような家族としてつながるように、みんなで助け合い、補っていたので、僕は特別なことは何もしていません。他の人より、ちょっと多めに差し入れをしたぐらいです(笑)。あとは、共演者には本当に感謝していたので、普段あまりしないんですけど、クランクアップ後に家族(役のキャスト)に焼き肉屋やバーでごちそうして、僕なりの、それぞれのイメージで選んだプレゼントを渡しました。今でもグループLINEで近況を話し合っています。
-皆さん「役にすんなり入れた」とおっしゃっていたのは、現場の空気がよく、同じ気持ちで作品に取り組んでいたからなのでしょうね。ちなみに、赤塚さんの漫画は読まれていましたか。
子どもの頃から漫画を読む習慣がなかったので、「天才バカボン」もアニメで見ていました。
-好きなキャラクターはいますか。
赤塚さんが描くキャラクターは、主役もそうだけど、主役以外のささいなキャラクターが際立っているので、ウナギイヌとかが好きです。
-印象に残っているシーンがあれば教えてください。
表向きはギャグアニメだけど、子どもながらに、見ていて切なく、苦しくなる瞬間があったのを覚えています。当時は理解できなかったけど、今は、赤塚さんが描きたかったギャグの奥底に、優しさや寂しさを感じたのかな…と思います。でも、そういうメッセージを感じていたのは僕だけじゃないんじゃないかな。「天才バカボン」の歌で、「西から昇ったお日様が東へ沈む」という歌詞がありますよね。そんなふうに、固定概念を違った形で見ると、いろんな表現の仕方や自由が待っているし、赤塚さん自身がばかをやって、ギャグ漫画を描き続けることで、同じ漫画家は「もっとやっていいのかな」とか、これから漫画家を目指す子どもたちは「飛び出していいんだ」と感化されたと思います。
-可能性が広がる一方、自由が奪われているような今の時代にぴったりの作品かもしれませね。
作風的には今の世の中にマッチしないかもしれないけれど、織り込まれているメッセージはドンピシャですよね。ここ最近、いろんなニュースを見ていても、窮屈だったり、子どもたちが大きく飛び立とうとしているのを大人たちが抑えつけていたりするように見えるので、このドラマを見て「これでいいのだ」という余白や曖昧の大切さを感じてもらえたらうれしいです。特に、「許さない」とか「怒り」によって人が結びつくと、いろんな可能性を潰すことがあるので、人を許す気持ちを持ってほしいです。そして、今の子どもたちが大人になったときに、楽に生きられる世の中になってほしいと、親になったからこそ強く願います。
(取材・文/錦怜那)
ドラマは6月30日からNHK総合で毎週土曜日に放送。