伝説のバレリーナが世界バレエフェスティバルに12年ぶりに登場する。1963年生まれの大スター、アレッサンドラ・フェリ。

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彼女が2013年に復帰したとき、「えっ」と驚いたバレエ・ファンは多かったはず。1980年代から第一線で活躍するイタリア人ダンサーで、振付家ケネス・マクミランのミューズだった。マノンやジュリエットもフェリが踊ると別の物語のように情熱的になり、音楽も深い陰影を帯びた。2000年のWBFでマラーホフと『椿姫』を踊ったときは妊娠中だったが、大胆なリフトにも怖気づかず、逆にマラーホフが彼女を気遣って神経質になっていたのを思い出す。英国ロイヤル・バレエ団の名花として活躍したのちアメリカン・バレエ・シアタ―に移籍し、ジゼルやジュリエットなど多くのドラマティックなヒロインを演じた。

2007年に日本でも引退公演を行ったが、復帰後はノイマイヤー振付『ドゥーゼ』、ウェイン・マクレガー振付『ウルフ・ワークス』に出演。エルマン・コルネホとのパートナーシップで新たな黄金期を築き上げている。技術的な衰えが全く感じられないのが信じられないが、今の彼女でしか見られない深い表現力にも注目だ。

フェリと同じく小柄な体格で、客席の視線を独り占めしてしまうダイヤモンドのようなダンサーが、大人気スターのアリーナ・コジョカル。今年5月に来日した英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団での『眠れる森の美女』のオーロラも記憶に新しいが、去年の秋に出産をして短期間で復帰を果たした奇跡のバレリーナでもある。

古典からノイマイヤーの『リリオム~回転木馬』のような人間の心の痛みを描き切ったドラマティックなバレエまで完璧主義のテクニックで踊り、音楽性も演劇性も世界最高峰のレベル。愛らしいルックスと優雅なオーラは生まれつきのプリンセスのようだが、プリンシパルをつとめたキエフ・バレエを1年で退団したあと、英国ロイヤル・バレエ団に移籍してコールド・バレエから登り詰めたという叩き上げの経歴ももつ。

現在はハンブルク・バレエとイングリッシュ・ナショナル・バレエに定期的に出演。舞台に現れただけで空間全体が明るく輝きだす存在感は、やはり神に選ばれたダンサーならではのもの。バレエ・ファンを魅了してやまない愛くるしさと、どこまでも求道的でストイックな生き方が魅力的だ。彼女が踊り続ける限り、1回でも多くその姿を目に焼き付けたいと思っているファンは多いはず。絶頂期のプリマの輝きを見逃すべからず。

アレッサンドラ・フェリ、アリーナ・コジョカルが出演する第15回世界バレエフェスティバル(Aプロ、Bプロ)は8月1日(水)から12日(日)まで、東京・上野の東京文化会館大ホールにて。チケット発売中。

文:小田島久恵