今年、新国立劇場オペラパレスのクリスマスシーズンは、アシュトン版の『シンデレラ』を上演する。クリスマスの風物詩として『くるみ割り人形』と共に観客に愛され、劇場が幸せに満ちた空間に変わる真心に彩られた作品だ。シンデレラを演じる小野絢子にアシュトン版の魅力を訊いてみた。
イギリス最高の振付家フレデリック・アシュトンのバージョンは、ダンサーたちにとっても憧れの作品と呼び名が高い。「1幕はお芝居がメインになります。ほうきなどの小物を使うので、失敗しないように操るのが少しプレッシャーになりますが、ふたりの姉とのやり取りに活気があってとにかく楽しいですね」と小野のシンデレラは不幸や孤独を背負っているようには見えない。「彼女自身は全く自分の事を可哀想だと思っていないでしょう。もちろん皆が舞踏会に出掛けた後は一瞬寂しそうな表情を見せますが、お掃除を楽しむようなポジティブな心の持ち主です。義理の姉妹の意地悪もそんなに辛らつなものではないですし、彼女は姉たちの事を好きだと思いますね」と自らのシンデレラ像を話す。
シンデレラといえば、プロコフィエフの音楽。観ている側からしても心地よく、あの透明感に溢れた音楽に乗って踊っているダンサーにとっては「大好きな作曲家のひとりです。美しい旋律だけではなくて、不協和音が入りますが、それが全部合わさったときに不思議なくらい綺麗なメロディーになります」と顔が輝く。
小野にとってのおとぎ話のヒロインとは「童話の世界には超えてはいけないラインがあり、素を見せた瞬間にすべてが壊れてしまいます。シンデレラはあらゆる背景や性格が決まっていて、役に入っていきやすいです。王子様の役作りの方が難しいのかも。オーロラ(眠りの森の美女)の登場のように、どんな王子様が出てくるのだろうっていつも楽しみです」と相手役についても期待を寄せる。
「いつも私は姉たちの演技に合わせて少しだけ気持ちの入れ方が変わってきます。仙女や四季の妖精、道化など、魅力的なキャラクターたちが次々と登場し、毎回お客様に楽しんで頂いています。銀色の豪華な馬車で舞踏会に向かいますが、時間があっという間でもう少し乗っていたいです。2幕のお城に到着する場面では階段の下を観ずにポワント(爪先立ち)で、夢心地のまま降りなくてはいけないので緊張しますが、最高の見せ場になると思います」と素敵な夢の時間を約束してくれた。
小野絢子が出演する新国立劇場バレエ団『シンデレラ』ぴあスペシャルデーは、12月20日(土) 13:00開演、新国立劇場オペラパレスにて。
取材・文・撮影:高橋恭子(舞踊ジャーナリスト)