バレエ芸術というジャンルは、この世に存在する男性の中でも最も美しい男性たちが1点集中しているという点で、特異なアートなのかも知れない。ヴァイオリンのストラディバリウスに匹敵するのが生まれながらの容姿なのだから、その芸術的価値は億単位である。世界バレエフェスティバル(WBF)で目撃できる男性美を換算したら、どれくらいになるだろうか…美、美、美の瞬間の連続に、何度も通いたくなってしまう。美はカウントレスなのだ。
ロベルト・ボッレの美は奇跡である。現在43歳の彼だが20代の頃と比べて容姿も表現も衰えるところがなく、むしろ妖艶さや華麗さを加えていて、見るたびに「今こそが全盛期」と思う。非常に若い頃から成功していたボッレは、WBFに登場するベテラン・プリマともほとんど共演を果たしている。フェリやオレリーとのバックステージでの再会には、リユニオン的な雰囲気が漂うのではないかと思う。クラシックもコンテンポラリーも優美に踊るボッレの芸術性は多くの振付家を触発したが、内面的な魅力も大きく、稽古やリハーサルを見ていてもすべてがアーティスティックなのだ。ステージの上でもステージを降りても人々を魅了する特別なオーラは、やはり大スターのものだ。
どのアングルから見ても完璧に美しい…何をやっても美しい…という共通点をもつのがパリ・オペラ座バレエ団の天然王子マチュー・ガニオ。デニス・ガニオとドミニク・カルフーニを両親に持つバレエ界のサラブレッドである彼は、19歳でエトワールに昇格したときから「立っているだけでも絵になる」と完璧な美を賞賛されてきた。華やかな経歴の裏ではケガも多く、葛藤の多い時代も経験してきたが、30代を超えてからのガニオには何か吹っ切れたような清々しさがある。技術はますます磨きこまれ、表現に深みが加わり、ノーブルで優しいオーラに包み込まれている34歳の彼は、間違いなく「今が旬」の踊り手であると思う。WBFではベストなパートナーシップを築いているドロテ・ジルベールとマクミランの『マノン』とヌレエフの『シンデレラ』を披露する。美しい男性しか舞台にいないこの世界でも、さらに眩しい美に恵まれた貴公子たちを見ていると「神に愛されし者」とはこういう人なのだなと思う。ボッレと同様、ガニオもとても性格がよく、彼を知る人々は人間としてのガニオを信頼し愛している。神は美男に二物も三物も与えているのだ。
ロベルト・ボッレ、マチュー・ガニオが出演する第15回世界バレエフェスティバル(Aプロ、Bプロ)は8月1日(水)から12日(日)まで、東京・上野の東京文化会館大ホールにて。チケット発売中。
文:小田島久恵