初代中村吉右衛門の芸と精神を受け継ぐべく、2006年に始まった「秀山祭」が今年も開催される。初代の孫で養子でもある二代目吉右衛門を囲む合同取材会が開かれた。
「今回で秀山祭は11回目。初心に戻って1から始めようという気持ちで、播磨屋ゆかりの『俊寛』と『天衣紛上野初花』を選ばせていただきました」と吉右衛門は語る。
『俊寛』は、鬼界ヶ島に流された僧都・俊寛の物語。都から赦免船が来て、俊寛、康頼、成経ら流人は船に乗るが、成経の恋人である島の娘・千鳥だけ乗船を許されない。俊寛は罪人として島に残る道を選んで千鳥を船に乗せ、去っていく彼らを見送る……。吉右衛門にとって「初代が練り上げ、魂を込めた作品。もしスポンサーが出てくだされば、パリ、ローマ、ロンドンなどにもって行きたい。いずれも流刑地がありますから、よく分かっていただけることでしょう」と語るほど思い入れの深い作品だ。
「近松の名作だと私は思います。播磨屋は(原作である)文楽も竹本(義太夫節)も大事にしておりますが、竹本に乗って、踊りではないけれども踊りのように体を動かさねばならないところが多いお芝居です。その一方で、心理描写は現代的。島に残って千鳥を乗せるために上使を殺さなければならない場面などは、その心理を竹本や三味線と息が合わせて表現する型になっております。今回、(竹本)葵太夫さんが通して語ってくださるので、とても有難く嬉しい気持ちです」
本作に主演し、これまで数々の名演を見せている吉右衛門だが、20年ほど前、演じながら特別な体験をしたという。
「最後、船を見送っていると、上の方から(仏・菩薩が人々を苦役から救って彼岸に送る)弘誓の船のようなものが降りてくるのが見えたんです。弘誓の船が来るということは、そのまま死んでいくこと。私は、この芝居での俊寛は息絶え、解脱して昇天していくのではないかと思いました。以来、幕が閉まる寸前に上方を見上げるようにしています」
一方、『河内山』は、松江侯に妾となるよう強要され、屋敷から帰してもらえずにいる質店上州屋の娘のお藤を、お数寄屋坊主の河内山宗俊が見事に奪還するまでを描く、爽快な物語だ。
「庶民の味方である悪人の、巨悪に対する生き様を描いたお芝居でです。お客様に喜んでいただいて、最後は溜飲を下げていただく。講談だったものを舞台として立体的にお見せするわけですから、それでつまらないものになるなら私は役者としてやっていけません(笑)。初代がもっと面白くやっていたのは分かっているのですが、少しでも近づけたらと。楽しんで演じたいですね」
他にも魅力ある演目が並ぶ秀山祭を「多彩な顔ぶれ、多彩な狂言」と表現した吉右衛門。中村福助の5年ぶりの舞台復帰についても、「誠に慶事」と喜びを表した。
「秀山祭は私が生きている理由。今後20回、30回と続けていけたらと思っています」
9月2日(日)から26日(水)まで東京・歌舞伎座にて。
取材・文:高橋彩子