(C)呉勝浩/講談社 2025映画「爆弾」製作委員会
『爆弾』(10月31日公開)
酔った勢いで自販機を壊し店員にも暴行を働き、警察に連行された正体不明の中年男(佐藤二朗)。自らを「スズキタゴサク」と名乗る彼は、霊感が働くとうそぶいて都内に仕掛けられた爆弾の存在を予告する。
やがてその言葉通りに都内で爆発が起こり、スズキはこの後も1時間おきに3回爆発すると語る。スズキは尋問をのらりくらりとかわしながら、爆弾に関する謎めいたクイズを出し、刑事たちを翻弄(ほんろう)していく。
「このミステリーがすごい!2023年版」で1位を獲得した呉勝浩の同名小説を永井聡監督が映画化。取調室でのスズキと捜査員たちとの攻防を描く会話劇と都内各地での爆弾捜索の行方を描くパニック劇を同時進行で見せる。
スズキ役の佐藤二朗の怪演に加えて、捜査員を演じた山田裕貴、染谷将太、寛一郎、渡部篤郎の好演によって、取調室内に極度の緊張感が生まれた。特に山田が演じた類家とスズキのやり取りは『羊たちの沈黙』(91)を思わせるものがあった。佐藤は「(演技で)対決したいとは全然思っていなくて、要は一緒に高みに登っていくのが楽しかった」と語っている。
『盤上の向日葵』(10月31日公開)
信州の山中で身元不明の白骨死体が発見される。現場には、この世に7組しか現存しない希少な将棋駒が残されていた。駒の持ち主は、将棋界にすい星のごとく現れた天才棋士・上条桂介(坂口健太郎)であることが判明。
さらに捜査を進めていくと、桂介の過去を知る重要人物として、賭け将棋で圧倒的な実力を誇った裏社会の男・東明重慶(渡辺謙)の存在が浮上する。やがて、謎に包まれていた桂介の生い立ちが明らかになる。
2019年にドラマ化された柚月裕子の同名小説を映画化したヒューマンミステリー。昭和から平成へと続く激動の時代を背景に、過酷な人生を生きる天才棋士の光と闇をドラマチックに描く。監督・脚本は熊澤尚人。事件の真相を追う刑事役で佐々木蔵之介と高杉真宙が共演している。
推理劇としては上条の不幸かつ数奇な運命、それを解き明かしていく捜査陣というストーリー展開、印象的なラストシーンなどは、松本清張原作の名作『砂の器』(74)をほうふつとさせるものがあるが、大きく異なるのは渡辺演じる東明の存在。従って、将棋を介した上条と東明の不思議な関係がこの映画の見どころとなる。坂口と渡辺の演技合戦が見ものだ。
『てっぺんの向こうにあなたがいる』(10月31日公開)
1975年、エベレスト日本女子登山隊の副隊長兼登攀隊長として、世界最高峰の女性世界初登頂に成功した多部純子(のん、吉永小百合)。その偉業は世界中を驚かせ、純子自身や友人、家族たちに光を与えたが、同時に深い影も落とすこととなった。
登山家としての挑戦はその後も続き、晩年には闘病生活を送りながら、余命宣告を受けた後もなお、純子は笑顔で周囲を巻き込み、山に登り続けた。
吉永の通算124本目の映画出演作。女性で初めて世界最高峰エベレストの登頂に成功した登山家・田部井淳子をモデルに、人生の全てを懸けて“てっぺん”に挑み続けた女性登山家の姿を描く。純子の夫役で佐藤浩市、純子の盟友役で天海祐希が共演。阪本順治監督が『北のカナリアたち』以来13年ぶりに吉永とタッグを組んだ。
純子の登山家としての業績よりも、仲間や家族との葛藤の方に重点を置いて描いている。だからこそ、吉永が演じる価値がある。若き日の純子を演じたのんも好演を見せ、“二人で一人の純子像”を見事に現出させた。ダブルキャストの成功例として記憶に残る。
(田中雄二)







