寺西拓人(C)『迷宮のしおり』製作委員会

 2026年1月1日全国公開となる『迷宮のしおり』は、「マクロス」、「アクエリオン」シリーズなどで知られる河森正治監督初のオリジナル長編アニメーションだ。


 引っ込み思案な女子高生・前澤栞(声:SUZUKA(新しい学校のリーダーズ))は、親友の希星(声:伊東蒼)と撮った動画がきっかけで、スマホの中に広がる不思議な世界に閉じ込められてしまう。途方に暮れる栞に手を差し伸べたのは、若き天才起業家・架神傑。架神は栞に「本当の自分を取り戻させてあげる」と約束するが…。


 本作で、物語のカギを握る架神傑の声を演じて声優に初挑戦したのが、「Yahoo!検索大賞2025」に輝いた注目のアイドルグループ“timelesz”の寺西拓人。公開を前に、その舞台裏を語ってくれた。


-オリジナリティーあふれる物語とサプライズ満載の展開で、最後まであっという間でした。寺西さんは今回、声優初挑戦だそうですが、オファーを受けた時のお気持ちはいかがでしたか。


 声優の仕事には以前から興味があり、挑戦したいと思っていました。ただ、プロフェッショナルな仕事でもあるので、簡単ではないだろうなと。だから、お話をいただいたときはうれしさの半面、「大丈夫かな?」という若干の不安もありました。とはいえ、僕に任せてくださった皆さんのためにも頑張ろうと思っていました。


-アフレコに臨むにあたって、なにか準備はされたのでしょうか。


 完全に未経験だったので、正直言ってどんな準備をしたらいいか、まったくわからなかったんです。声優の経験がある周りの方に聞いても、「難しいよ」と脅かされるばかりで(苦笑)。だから、本番前に「練習の時間をください」とお願いし、一から教えていただきました。


-作品を拝見したところ、初挑戦とは思えないほど寺西さんの声が役にマッチしていました。どのように架神傑というキャラクターを作っていったのでしょうか。


 河森監督から「実際に一回やってみましょう」というお話があり、架神のせりふやシーンを、テスト的に演じさせていただきました。まずは「画面のここにタイムが出るので、このマークが表示されたタイミングで話し始めてください」と、初歩の初歩からご指導いただいて。それから徐々に、「ここはもう少しささやくように」とか「ここはもう少し惑わすように」といった感じでディレクションしていただきながら作っていきました。


-河森監督は、「寺西さんは舞台経験もあるので、最初から役に入り込まれていました」と語っていますが、演じる上で舞台の経験が生きた部分はありましたか。


 声だけとはいえ、お芝居には変わりないので、演じるという意味では、今までやってきたことが役立った部分もあると思います。ただ、間も決まっていますし、口の動きに合わせてしゃべらなければいけないなど、さまざまな制約のあるお芝居は、舞台や実写とはまったく勝手が違いました。しかも、稽古を重ねて役を作り上げていく舞台と違い、収録が数日で終わることも驚きで。ただその分、瞬発力を求められる仕事でもあるなと。いかにその場で監督の求める表現ができるかという初めての挑戦は、とても刺激的で楽しい経験でした。

-どんな点が楽しかったのでしょうか。


 舞台や実写作品の場合、役を演じていても、どこか自分が残っているんです。でも、アニメーションは外見が自分と全く異なるので、より強い没入感が味わえて。それがすごく楽しかったです。


-そういう意味では、主人公の栞がスマホの中の世界に閉じ込められるという独創的な物語も、没入感を高める大きな要素となっています。その点について、寺西さんはどんな印象を持ちましたか。


 現代を生きる僕たちにとって、スマホはもはや手放せないツールで、そこには大量の個人情報が記録されています。だから、「スマホはもう一人の自分」という言葉にはハッとさせられました。SNS上で華やかな他人と自分を比べてコンプレックスを感じる問題や、「バズり」を重視しがちな世の中の風潮を取り入れている点も、すごく考えさせられるなと。それと同時に、「創聖のアクエリオン」(05)のように音楽と映像が一体になった河森監督らしい魅力にもあふれているので、僕自身、とても気持ちよくアフレコができました。


-河森監督の印象はいかがでしたか。


 河森監督は物腰が柔らかく、とても優しい方でした。アフレコ中も、初めて挑戦する僕の緊張を和らげるため、何度も褒めてくださって。おかげで、右も左もわからなかった僕も、スムーズに気持ちを乗せていくことができました。そんな温かいお人柄の一方で、作品自体は常に尖っていますよね。この作品でも、僕のよく知る横浜を舞台に、あんなサプライズ満載の物語を作り上げるのかという新鮮な驚きがありました。


-河森監督は「声優初挑戦の方とご一緒することで、『誰でも新しいことに挑戦できる』というメッセージを伝えたかった」と語っていますが、声優に初挑戦した感想はいかがでしたか。


 声優初挑戦で、架神傑の天才起業家としての一面から、その思惑の裏に秘められた過去まで、1人のキャラクターの様々な側面を演じられたことは、すごく勉強になりました。河森監督も「良かったです」と褒めてくださいましたが、僕自身は「もっとこうすればよかった、ああすればよかった」という反省点が多々あります。だから、河森監督の言葉に甘えることなく、機会があれば今後も声優に挑戦していきたいと思っています。


(取材・文/井上健一)